トヨタ自動車の企業内訓練校にトヨタ工業学園がある。モノづくりのプロを目指すこの学園の卒業式には、毎年豊田章男会長が出席し祝辞を述べている。すべての若者たちへのメッセージとも受け取れる章男会長からの祝辞をピックアップ!!
※本稿は2025年4月のものです
文:ベストカー編集部/写真:トヨタ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年5月26日号
“お父さん”から贈られる言葉の意味
2025年2月17日に行われたトヨタ工業学園の卒業式において、豊田章男会長は、卒業生229名を前に「わが子を祝うおやじ」として祝辞を述べた。そのなかにこんな一節があった。
「高等部の皆さん、今年の学年キーワードは『かっこいい大人へ』でしたね。
オーストラリアでのホームステイではホストファミリーとの別れ際に涙を流した人もいたと聞いています。見ず知らずの自分を受け入れ、我が子のように接してくださったご家族への感謝の想いが、涙となり溢れ出たのだと思います。
言葉や文化が違っても、むしろ、違うからこそ相手の気持ちを想像する。そして、違いを個性として認め合い、お互いに助け合う。
皆さんがホームステイで経験したことは、まさに『かっこいい大人』への第一歩になると思います。
専門部の皆さんは、あらゆる行事において、自ら考え、行動してくれましたね。(豊田市の)下山・平山地区の地域貢献活動では、清掃作業が予定より早く終わると、率先して畑の整備をしてくれました。
大雨のなか、懸命に取り組む姿を見た花山小学校の先生方は、『こんなに素晴らしい若者たちがいたのか』と感動して涙を流されました。
皆さんお一人お一人の意志ある情熱と行動が、多くの人の心を動かしたのだと思います。
卒業生の皆さんがこの学園で学んだこと。それは、自分以外の誰かを思いやる『優しさ』であり、ここまで育ててくださった『ご家族への感謝』だったのではないでしょうか」
トヨタ工業学園は全寮制のなかで、高等部(3年)と専門部(1年)があり、高等部の場合3年間で2000時間(全教育の約40%)、専門部は同じく約65%を技能実習に費やしモノづくりを学んでいく。
また社会人、企業人としての基礎や基本を身につけるためにマラソンや団体規律訓練、地域貢献活動が行われ、チームワークを学ぶためにクラブ活動も重要視される。
そんなトヨタ工業学園の卒業生に贈られたスピーチでは「多様性の尊重」「家族への感謝」「他人を思いやる気持ち」の3つの大切さを語っている。いずれも今後社会に巣立ち、未来を築いていくうえで欠かせないものだ。
特に他人を思いやる気持ちは、社会人になると、どうしても自分しか見えなくなり、忘れてしまいがちだ。豊田章男会長が繰り返し話す「自分以外の誰かのために」行動することで、社会がよりよいものとなり、自分も豊かになっていけることを教えてくれる。
2024年の挨拶の一節も紹介しよう。
「皆さんの大先輩の河合おやじが、トヨタグループの『おやじの会』で、こう言われていました。『たとえ会社が違っても、俺たちは、同じ匂いがするから5分で仲よくなれる。そして明日からは、電話一本で助け合える関係だ』。実際は、5分ではなく、3秒の世界だと思います。
自分に技能がある人は、相手が技能を身につけるのにどれだけ苦労したのかわかります。だから、言葉にしなくても通じ合えるのだと思います。皆さんには、世界中の仲間と「技」で会話ができる。そんな人になってほしいと私は願っています。
先月、トヨタグループのビジョンを発表しました。現場のリーダーの一人として、学園からも代表者が出席してくれました。『次の道を発明しよう』。『次』は、『未来』を『発明』はグループの『原点』をあらわしています。
では、『道』とは、何でしょうか? 答えは、皆さんの中にあります。卒業生249名に249通りの『道』があっていいと思います。そのほうが面白い。私はそう思っています」
ここでは努力して技能を身につけることの重要性や、技能を身につけた後の可能性、そして個性を磨くことの大切さが語られている。自分だけのワザを磨き、個性を伸ばすことは社会人として広く求められることであり、学園の卒業生だけでなく、多くの若者たちにとってもエールとなるはずだ。
コメント
コメントの使い方いやガチで、章男氏は製造業や整備士やメカニックといった職業に、誇りを与え直してくれた偉人だと思う。
ネットの普及で、全然知りもしない奴や、早々に脱落してもの作りの何たるかを知らない奴らが、ひたすら扱下ろしたのがこれら職業。
自分たちが生きてる日本の豊かさも、周りのあらゆるモノも、これらが支えた部分大きいのに、一部切り取って扱下ろした
その為に蔑まれ続けた彼らの魂を救い、格好良さを再確認させてくれた