日本では改造車というと負のイメージが強いが、オーダーメイドの文化が根付いてる地域では、贅沢品として扱われることが多い。そして世界有数の富豪が作った贅沢品がまた1台発見された。発想がそもそもユニークならレンジローバーの2ドアコンバーチブルだ。
文:古賀貴司(自動車王国) 情報元:RM/サザビーズ
【画像ギャラリー】白レザーがたまらん!! 希少すぎ2ドアオープンのレンジがイイぞマジで!!!(7枚)画像ギャラリー多くの逸話を残すコーチビルダーが制作
先日、RM/サザビーズが開催したオンライン・オークションに登場した、1995年式ランドローバー・レンジローバーに目が奪われた。
見たことも、聞いたこともない、カタログモデルには存在しなかった2ドア・オープンカー仕様になっていたからだ。
アメリカの一部エンスーが好む“ルーフカット”と思いきや、車両紹介には「スタイリングガレージのハーンが手掛けた」と記されている。
スタイリング・ガレージ(SGSとしても知られる)は、ドイツのハンブルク近郊レリンゲンに拠点を置くコーチビルダー兼チューナーだ。
ペーター・エンゲルとクリスチャン・ハーン(造船技師出身)によって設立されたが、エンゲルはすぐに離脱。
当初はハンブルク郊外ピンネベルクの修理工場だったが、ハーンが数台のメルセデスをリムジンに改造し始めた。
事業は急速に成長し、1981年にアブダビの「レインボー・シーク」として知られるハマド・ビン・ハムダン・アル・ナヒヤンの結婚式のために、虹色のSクラス・メルセデス40台をリムジンに改造する契約を獲得した。
顧客の半数以上は中東の王族、残りはアメリカのセレブリティ、日本のビジネスマン(バブル紳士)、アフリカ各地の指導者たちで構成されていた。サダム・フセインのためにアストンマーティン・ラゴンダを改造したこともあるという。
高い技術で実現した2ドア&オープン化
1979年から活動を開始し、1986年には破産に追い込まれた。ハーンは1987年に新会社「デザイン&テクニック」を設立。
この会社もメルセデス・ベンツ車を改造し、自動車メーカーからの仕事も請け負った。ちなみに、デザイン&テクニックでも時にSGSブランドも使用したそうだ。同社は2007年まで営業し、その後は活動を停止。
経緯は不明なものの、現在ハーンは「SGS Styling Garage Service UG」という1980年代のスタイリングガレージ、AMG、ゲンバラ、ケーニッヒ・スペシャル、トラスコ車両の修復業を営んでいる。
さて当該車両、ベースとなったのはアメリカ市場向けの標準ホイールベース仕様P38A型レンジローバー4.0SEだ。スタイリングガレージは、多数の部品を再設計してコンバーチブル・クーペに変身させた。
フロントドアは数インチ延長され、フレームレス・ウィンドウが装着されている。リアのトランク(?)周りの処理など、実にお見事。
“お金かかっているんだろうなぁ…”と思わせてくれる。実はカタログモデルとして存在していた、と言われたなら信じてしまいそうだ。
走行距離1万64000マイルの当該車両、果たして金額は?
ハーンに発注したのはクルマ好きとして有名な、ブルネイのハサナル・ボルキア国王(兼首相兼国防相兼蔵相)である。
そもそもボルキア国王、スタリング・ガレージに数多くのメルセデス・ベンツ車を発注。当時、スタイリングガレージの法人は存在しておらず、デザイン&テクニックとして請け負ったのだろう。
ボルキア国王、“アメリカで乗り回すレンジローバーなら、2ドア・オープンカーがいいなぁ”と思ったのだろうか。
1995年6月にビバリーヒルズホテル地下のボルキア王室専用ガレージに納車されたと言われているこの車両。
1999年にはカリフォルニア州在住のオーナーが購入し、現在の走行距離は1万6400マイル未満だ。予想落札価格は 10万~12万5000ドルと見積もられていたが、11万5500ドルで落札。
30年前のクルマではあるが、ボルキア国王の希少性への心理的欲求、自己表現としての差別化を味わえると考えれば、思いのほかお手頃価格だった、と言えそうだ。
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