日本経済、いや世界の経済を混乱に陥れつつあるトランプ関税。日米両国が納得できるおとしどころが探られているが、日本の自動車界にとって、脅威となるのはトランプ関税だけなのか? おなじみ3名の自動車評論家陣が激論!!
※本稿は2025年6月のものです
文:国沢光宏、鈴木直也、渡辺陽一郎/協力:永田恵一/写真:マツダ、日産、トヨタ ほか
初出:『ベストカー』2025年7月10日号
警戒すべきは「トランプ関税」だけなのか?
一部メーカーが2025年度の業績見通しを未定とするなど、業界を大きな混乱に巻き込んでいる「トランプ関税」。より一層先の見通せない状況となっている世界経済だが、トランプ関税以外にも、日本メーカーにとっての不安要素はあるのか。3人が激論する。
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鈴木:クルマって、企画してから発売までに5年くらいの長い時間のかかる商品という前提があるだけに、トランプ関税を筆頭に想定外のことがたくさん起きると、決算の見通しが出せないとか、あまりにも予定や計画を立てられないというのが困るよね。
そうなるとコミットができないだけに、次の世代の新車計画、少なくともトランプの任期が終わるまでのアメリカ向けの新車計画なんて、凍結したいくらいじゃない?
国沢:基本的には為替とか関税、雇用と関連する貿易摩擦といったリスクを避ける意味でも、お客さんの多いところでの地産地消と現地生産を進めていくべきでしょう。
その意味ではホンダは日本メーカーにおける地産地消のパイオニアだったのに、カナダに電池工場を作るのはいまだに「う~ん」と感じる。まあこの際地産地消を推進するいい機会と考えるべきなのかも。
鈴木:そうはいっても、工場というのはサプライチェーンを含め莫大な投資が必要なだけに、資金があるところはいいとしても、資金のないところが工場建設の事業計画が立ってないと、計画がやり直しになるとか、立てた計画が果たして間に合うのか、活きるのか? という懸念まで出てくるでしょう。
国沢:それはマツダのことですか?
鈴木:だから、マツダはトヨタと合弁のアラバマ工場を拡張して、マツダが地産地消する分を増やすというのがトランプ関税に対する現実的な解なのではないかと。
そんなふうにA案、B案、C案と柔軟に動けるようにすることが重要に思う。代替プランがないと。ヨーロッパが2035年にエンジン禁止という法律を作ったはいいけど、延期が決定的になって、今メーカーが右往左往しているのが象徴的かと。
国沢:ヨーロッパのエンジン禁止は延期にはなっても、実施されるとは思いますが。
鈴木:ただ、プランをいくつか用意するというのも、トヨタのように資金がない限り、中途半端なプランになったり、結局代替プランまで手が回らなくて結局本命プランのみになったりしがちというのも事実。
国沢:ホンダがカナダに電池工場を作るのもNAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコによる北米自由貿易協定)があったからだけど、第一次トランプ政権の時に内容が変わってしまったという不運もあった。
まあホンダがアメリカとカナダを同じ北米と見てしまったというミステイクは事実だけど、そういったリスクをなくすためにも、地産地消を進めていくべき。
渡辺:第一次トランプ政権までNAFTAもあり、メキシコはアメリカメーカーを含め、自動車工場は増えましたよね。
国沢:GMとフォードって販売台数の半分近くメキシコなんじゃないですかね。
鈴木:そこにサプライチェーンも含めたら巨大な産業であり、一朝一夕に変えられることではないから、地産地消に限らず決断は凄く難しい。
国沢:それでも日本メーカーとアメリカの付き合い方で見たら、日本がアメリカに叩かれた挙句、日本からの輸出台数自主規制やプラザ合意以降急激な円高があった1980年代や、1ドル=100円を割った1990年代中盤に比べれば、今のほうがきつくないと思う。
渡辺:当時は今ほど海外に日本メーカーの工場もなかったしね。
鈴木:あの頃は中国が世界経済に参加してなかったのは幸いだったかな。でも当時はアメリカで日本のみがあまりに目立ったから叩かれたという側面もある。今思えばよく切り抜けられたもんだと思う。それに比べると、今はいろいろな意味で将来どうなるか非常にわかりにくい。
国沢:今は体力のないメーカーがあるから、生き残れない会社があるんじゃないかなというのはわかる。
鈴木:日本メーカーは正念場で、トータルで見てトヨタとスズキは安泰だとしても、特に日産とマツダはアメリカ比率がそれなりにあるだけに、何らかの動きが必要。
ベストカー:しかし、ヨーロッパのメーカーのほうが日本メーカーより状況の厳しさを感じるのですが。
鈴木:そのとおり。なんか最近、ヨーロッパ車というかヨーロッパ文明の黄昏を急に強く感じてる。

















コメント
コメントの使い方ヨーロッパ諸国の斜陽は車の落ち込みがなくても既定路線でした。
そもそもがドイツや油田国以外は、植民地支配での膨大な搾取資本のやりくりによって世界の盟主面してただけなので
金融以外で増やせてないまま、ゆっくりと崩壊し続けて最終段階に入ってました。それが自動車と中国で少し早まった。
問題は、早まったせいで恐慌やテロや労働者問題などが起こりやすく日本企業まで巻き込まれること。