2021年、ホンダの三部敏宏社長は就任会見で「2040年までに電動化率100%を目指す」と宣言。エンジンにこだわり続けたホンダの方向転換は業界に衝撃を与えたが、2025年5月には電動化戦略を軌道修正。ホンダの未来はどうなる!?
※本稿は2025年7月のものです
文:井元康一郎/写真:ホンダ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年8月10日号
ホンダが広げた“風呂敷”のその後は?
「2040年までに内燃機関を廃止し、電動化率100%を目指す」。2021年にホンダ社長に就任した三部敏宏氏は就任会見でこうブチ上げた。
たしかに当時、脱エンジンを掲げるのは世界の自動車業界の流行だった。が、ホンダは「エンジンが人を幸せにする」という創業者、本田宗一郎氏の言葉よろしく内燃機関に徹底的にこだわってきた企業。そのホンダが“脱エンジン”を掲げる日が来るとは――と、多くの記者が驚きを隠さなかった。
三部社長が広げた風呂敷はそれだけではない。自動運転をやる、飛行機をやる、電動マルチコプターもやる、ロケットや宇宙開発もやる、一旦は放棄したヒューマノイドロボットもやる、モビリティを四次元に拡大していく。
それから4年あまりが経った今日、三部社長の広げた風呂敷の“回収率”は正直、高くない。
電動化率100%については欧州に小型クロスオーバーBEVの「e:Ny1」、中国市場にはハイクラスBEV「イエ(Ye)シリーズ」など新商品を投入したが、ことごとく大敗北を喫した。
三部社長は2025年の経営説明会「ビジネスアップデート」でBEVへの投資額の縮小、カナダのBEV工場の稼働先延ばしなど、EV推進色を急速に弱めている。
EVよりもホンダが苦戦していること
BEVはホンダにとって新ジャンルの商品ではあるが、動力こそ違えどエンジン車と同じくクルマであるという一点でまだやりやすいものがある。が、同じ自動車でも先端分野の自動運転となると迷走が目立つ。
2016年にアメリカの自動運転プラットフォーマーWaymo(ウェイモ)と協業を決めたものの、技術開発の中核に関わることができず関係を解消。
新たに米GMと提携するが、GMの自動運転関連子会社クルーズが事故を起こして解散したことで、GMと協業で進めるはずだったホンダの自動運転計画も頓挫。出直しとなった。
宇宙航空、ヒューマノイドロボットなど、三部社長が語った“バラ色の未来像”となると、技術開発は進むものの、その大半はいまだにビジネス化のアウトラインすら見いだせないでいるという状況である。
業績自体は堅調であるため、ホンダの経営は表向き成功しているように見える。が、その業績は成熟技術で作られる新興国向け二輪車の好調に支えられてのもので、技術やビジネスの先進性ではむしろ負けが込んでいる。
ホンダの時価総額と純資産の比率を示すPBRは約0.5倍。これは投資家がホンダの株の価値を、資産を全部売り払って現金化した場合の半額くらいにしかみていないということを意味する。
ルーチンワークでは稼げているものの、時代を切り拓く先駆者としてのパワーを示せないことが、そういう停滞感の一因となっているのは間違いない。
三部社長の大風呂敷にはそんなホンダの閉塞感を打開するための劇薬という側面があった。自動車という井の中に閉じこもるのではなく、他業界とクロスオーバーするビジネスを積極的にモノにしていくことが、ホンダが将来にわたって世の中から存在を期待される企業であり続けるための唯一の道というわけだ。
その考え方自体は別に間違ってはいない。2040年に電動化率100%というのも実現性は薄かったかもしれないが、2021年当時は電動化率について高い目標を宣言するのが自動車業界で流行っており、それに乗ったと考えれば充分“あり”だ。
世の中になかった製品やサービスの創出力も、世界の一流となることを目指すなら持っていて当然だ。


















コメント
コメントの使い方熟考せずに流行りに乗るからや。その点トヨタはすげーなと思う。
ホンダが復活するのに必要なのは、純内燃機関車です。
化石燃料止める宣言でホンダ車止めた人です
ふざけんなよ!