たった一台のクルマのデビューで、昨日まで存在しなかったジャンルが確立されてしまう……あるいは、人々の気持ちを揺り動かし、大きなブームを起こしてしまう……。ここでは、日本車の歴史を動かした革新的名車の一部をご紹介する。
※本稿は2025年8月のものです
文:大音安弘/写真:トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年9月26日号
時代とともに変わるヒット車
国産初の高級車として1955年に誕生した初代クラウンは、当時の最新技術を集結。高級車市場を独占する輸入車に勝負を挑んだ。
日本初の国民車となったのが、1958年に発売されたスバル 360だ。元飛行機技術者たちが知恵を絞った軽自動車は、大人4人で使える高い実用性を備えていた。
セカンドカー需要を生み出したのが、1979年のスズキ アルト。47万円の低価格に加え、軽商用車とすることで物品税を回避するというウルトラCで、大ヒット。
1980年登場の5代目ファミリアは、流行に敏感な若者の心を鷲掴みに。屋根にサーフボードを積むが海に行かない「陸(おか)サーファー」という流行語を生んだ。
クルマのハイテク化が進んだ時代を象徴するのが、1981年のトヨタ ソアラだ。夢のクーペに、誰もが憧れた。
クロカンの乗用車化に成功したのが、1982年の三菱 パジェロで、RVブームを牽引。パリダカでの活躍にも、日本国民は熱狂した。
バブル期には、個性豊かなクルマたちが登場。1987年のデザイン重視の小型車、日産 Be-1は、爆発的人気となり、パイクカーブームの先駆けに。翌年の1988年には、豪快な走りでも愛された日産 シーマを投入。飛ぶように売れ、「シーマ現象」とまで呼ばれた。
1989年になると、ドイツ高級車も慌てさせたというトヨタ セルシオが誕生。メイドインジャパンの実力を世界に知らしめた。
同年には、生活に彩りを与えるクルマとして、英国ライトウェイトスポーツカーを現代に蘇らせたユーノス ロードスターと、ロングドライブを楽しむワゴンのスバル レガシィツーリングワゴンが発売。欧米自動車文化を日本的にアレンジし、世界的人気に。
今や多くの人の生活を支える軽ハイトワゴンは、1993年にスズキ ワゴンRとして産声をあげる。居住空間を劇的に改善し、軽乗用車のイメージを一新させた。

クロスオーバーSUVの未来を切り拓いたのは、1990年代のトヨタ。1994年のRAV4は、キムタク効果で女性からも注目されたが、総合力の高いSUVであった。
そして、高級SUVをクロカンからクロスオーバーへとシフトさせたのが、1997年のハリアーだ。
同時に1990年代は、ミニバン進化の時代でもあった。1994年、ホンダは低全高ミニバンのオデッセイを投入。走りのよさが受け、セダンからの乗り換えも多かった。
高級ミニバンのパイオニアといえば、1997年の日産 エルグランド。従来の商用車派生ではなく、乗用車として開発し、見た目と内容に特別感を与えた。
2000年代は、エコカー普及期。ホンダは、高効率なエンジンと背高ボディを組み合わせたフィットを2001年に投入。ホンダらしく、圧倒的な低燃費だけでなく、機能性と走りのよさも備えたことがクルマ好きの心を捉えた。
ハイブリッドの普及拡大に大きく貢献したのが、2003年の2代目トヨタ プリウスだ。初代の弱点を克服し、値段も抑えたことで、長くビジネスカーとしても大活躍した。
軽自動車の上級化を図ったのは、2011年のホンダ N-BOX。今のホンダ軽人気の基礎を築いたモデルだ。
新たな高級車像を生み出したのが、2015年登場の3代目トヨタ アルファード/ヴェルファイア。わかりやすい高級感と全席の快適性を最優先したことで、ショーファーカー需要をセダンから奪うまで成長を遂げた。

















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