■派手なクルマは恥ずかしい? ハード系人気は日本人独自の感性が関係
日本人の心性の基盤には、武士道がある。これを抜きにして、この現象は語れない。武士道は華美を嫌い、質素を旨とする。華美は悪であり、質素は善なのだ。
人間の本能は華美に走りたいわけで、それは日本人とて同じだが、たとえ成功してお金持ちになっても、その欲望をぐっと抑えて質素を守っている人が最も尊敬され、むやみに華美に走ることは「恥」とされる。
海外では決してそうではない。武士道的な道徳観がないので、ダイレクトに華美に走ってしまう。あまりに華美だと「クールじゃない」という反応は出るが、華美は決して悪ではない。
アメリカはまさに華美の合衆国。大統領からしてあんな感じだから推して知るべし。オラオラデザインの本家本元はアメリカだ。
ヨーロッパはアメリカほどギラギラではないが、ヴェルサイユ宮殿やバッキンガム宮殿を見れば、華美でエレガントなデザインが至上という志向があるのは間違いなく、それが自動車デザインにも表れている。
中国は、それこそ見栄の帝国。流行の移り変わりは激しく、今はちょっと落ち着いたエレガント系デザインがはやっているが、それとて見栄を張るためだ。
一方日本では、いまだに「カッコいいクルマに乗るのは恥ずかしい」という感覚がある。カッコいいこと=派手で中身が薄っぺら。つまり悪であり恥なのだ。逆に、機能に徹した質素なデザインは、非の打ちどころのない完璧な存在と称揚される。もちろんサイズも小さい方がいい。縮み志向というヤツですね。
■日本人にとっての至高のデザインとは!? 現代日本人が求める志向
そこから導き出されるのは、「現行ジムニーこそ至高の自動車デザイン」という結論だ。
新型ジムニーが登場した時、多くの日本人は、理想の自動車デザインを目の前に突き付けられた思いだったのではないか? もちろん、ジムニーのような悪路走破性は、一般ユーザーには必要ないが、東日本大震災や巨大台風の襲来など自然災害が相次いでいるなか、「あれば安心」と肯定される。
バブル期までは、豊かになる欲望が上回っていたため、スポーツカー的な速そうなデザインが装飾としてもモテモテだったが、20年続いたデフレがひと段落した今、日本人はハード系のデザインを「装飾的に」望んでいると見てもいい。ハード系は頑丈そうに見え、身を守ってくれる感覚もある。伸びではなく守り重視のデザイン志向だ。
スズキが新型ハスラーをハード系に振ったのは「世の中の本物志向が強まっている」というトレンドを読んだから。新型タフトを開発しているダイハツはネイキッドを出した実績もあり、ハスラーの大成功とキャストの失敗という教訓からも、「次は本物志向」という思いは持っていただろう。
ただ、今後この流れが拡大するかと言えば、小型車や軽自動車に限られるだろう。なにしろ、海外ではハード系デザインの需要が限られている。世界戦略車として開発する限り、ハード系デザインを採用するのは難しい。
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