ただの「楽な位置」だと思っていないか!? 「ドラポジ」の追求が真の人馬一体に近づく道だ!!

人馬一体とは最も身体に適したポジションを探すこと

中谷明彦氏が乗った全日本F3000車両
中谷明彦氏が乗った全日本F3000車両

 また、耐久レースでは複数のドライバーでマシンをシェアする。そうした場合、一人のドライバーだけに合わせる事ができないので、ほぼ全員がドラポジに妥協しなければならなくなる。こうした微妙なズレが、限界域での挙動制御に大きな差を生むのである。

 F3以上のフォーミュラカーには基本的にシートが付いていない。ドライバーがマシンに乗り込み、背中や臀部に発泡剤を注入して専用の発砲シートを作るのだ。この方式も少なくとも40年変わっていない。この発砲シートも、製作時は車両停止状態だから、走行してみないと完成度が分からない。

 一流チームならドライバーが納得するまで何度でもシートを作りかえる。例えばF1では低速のモナコ用と高速のシルバーストーンでは異なるドラポジをプロドライバーが求め、それに対応してくれるものだ。

 こうして身体に完璧に合ったポジションに座ったとき、車両との人馬一体感は高まり、ラップタイムも向上する。

実はこんなに違う!? 国産車と欧州車に見る設計思想

1990年登場三菱 GTOの運転席。中谷明彦氏は1995年と1996年にN1耐久でGTOに搭乗
1990年登場三菱 GTOの運転席。中谷明彦氏は1995年と1996年にN1耐久でGTOに搭乗

 市販車に目を向けても、国産と欧州車では設計思想に違いが見られる。国産車は米国車由来で比較的誰にでも「楽に」座れるポジションを優先する傾向があり、シートバックが柔らかく、ステアリングのチルトやテレスコ調整幅も限られることが多い。

 一方で欧州車はドライバーが積極的に車を操作することを前提に設計され、ステアリングやペダルの位置関係が論理的で調整幅も広い。結果として、ドライバーは「操縦に集中する姿勢」を自然に取ることができる。こうした設計思想の差が、走行フィールや運転の疲労感に直結するのだ。

 将来を考えると、ドラポジの意味も変わってくる。自動運転が普及すれば、ドライバーは操縦者から「乗員」へと役割を変える。しかし完全自動運転に至るまでの過渡期では、人間が主導権を持ちながらも支援を受けるという状況が続くだろう。

 そのとき、適切なドラポジは依然として安全と快適の鍵となる。誤操作を防ぎ、必要な時に瞬時に制御を取り戻せる姿勢を保証することも、相変わらず今後の車両設計において重要になるはずだ。

ドラポジこそ最も妥協してはいけない!?

マクラーレンF1は1992年に登場。中谷明彦氏の乗ったマクラーレンF1 GTRはそのレース仕様となる。写真はマクラーレンF1の運転席
マクラーレンF1は1992年に登場。中谷明彦氏の乗ったマクラーレンF1 GTRはそのレース仕様となる。写真はマクラーレンF1の運転席

 ドラポジとは単なる「座り方」の問題ではない。ステアリング、シート、ペダル、ベルト、それらすべてが連鎖して「人と車の一体感」を形づくるシステムと言える。適切なポジションに身を置けば、ドライバーはより少ない力で、より正確に車を操れる。

 逆に妥協したドラポジでは、どれほど高性能なマシンであっても潜在能力を発揮できない。

 これまで多くのレーシングカーを走らせてきたが、そのたびに痛感するのは、マシンの性能を完全に引き出すのはエンジン出力やタイヤのグリップだけでなく、まずは「ドラポジ」であるという事実だ。ドライバーが機械と一体化できた瞬間、良いマシンは見違えるほど従順に、自在に操れる存在へと変貌する。

 ドラポジを極めるとは、すなわちクルマの走行性能そのものを左右することになるのだ。

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