三菱FTOがくれた挑戦の勇気!! 小さなFFスポーツがポルシェ911や国産ハイパワースポーツカーを相手に大奮闘

三菱FTOがくれた挑戦の勇気!! 小さなFFスポーツがポルシェ911や国産ハイパワースポーツカーを相手に大奮闘

 三菱が販売した小さなクーペのFTO。COTY受賞、筑波での衝撃、そしてFFで全日本GT選手権に参戦。強豪揃いのなか、数回の表彰台を獲得。テッペンには届かなかったが、ヒトと技術が紡いだ価値は確かに残った。

文:中谷明彦/写真:富士スピードウェイ、ベストカーWeb編集部

【画像ギャラリー】FTOがポルシェを従えてる姿エモっ!! 貴重なGTマシンの姿をしっかり拝んで!!(9枚)画像ギャラリー

三菱製スモールクーペが未知の可能性に挑む

車名の由来はFresh Touring Originationの頭文字
車名の由来はFresh Touring Originationの頭文字

 1994年に登場した三菱FTOは、当時の国産スポーツカー市場に鮮烈な印象を残したモデルだった。流麗なスタイリングに加え、先進的なMIVECエンジンを搭載し、登場と同時に日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。

 さらに、ベストモータリングの筑波バトルでは、それまで「FF最速」の名をほしいままにしていたホンダ・インテグラ・タイプRを打ち破り、一躍脚光を浴びた。

 私にとっても、その走りは大きな可能性を感じさせるものであり、後に全日本GT選手権(現スーパーGT)参戦へとつながる道筋を描くきっかけとなった。

打倒GT-Rを目標に掲げてN1耐久シリーズを戦っていたGTO (写真提供:富士スピードウェイ)
打倒GT-Rを目標に掲げてN1耐久シリーズを戦っていたGTO (写真提供:富士スピードウェイ)

 当時、すでにプーマGTOでN1耐久(現スーパー耐久)レースに参戦していたが、FTOをベースにしたレーシングカーの構想は、実は自身の提案から始まっている。当初は、N1耐久を走っていたGTOを発展させ、GT500クラスでの参戦を模索していた。

 しかしGTのレギュレーションでは4WDが禁止されており、その計画は断念せざるを得なかった。ならば、FF最速という武器を活かしてGT300で戦うのはどうか。ニューツーリングカー選手権でFF勢が速さを見せていたこともあり、最終的に「FTOで挑戦する」というゴーサインが出たのだ。

テストの段階から確かな手応え

1998年から全日本GT選手権(現在のSUPER GT)のGT300クラスに参戦を開始したFTO (写真提供:富士スピードウェイ)
1998年から全日本GT選手権(現在のSUPER GT)のGT300クラスに参戦を開始したFTO (写真提供:富士スピードウェイ)

 マシン製作を担ったのは、レース界の名門ノバエンジニアリングだ。彼らの手によって仕上げられたGT300仕様のFTOは、想像を超える完成度を誇っていた。心臓部にはランサーエボリューションと同じ4G63ターボを搭載。

 これをフロントミドシップに近い位置へレイアウトし、重心を低く抑える工夫がなされていた。冷却系も独創的で、大型空冷インタークーラーとラジエーターを低い位置にユニット化し、空力的に分離配置。エンジンルーム内への余分な空気流入を抑え、高速時のフロントリフトを最小限にとどめる狙いがあった。

 さらに、フロアをフロントエンドからリアアクスルまで完全フラット化し、車体全体でダウンフォースを獲得できる仕組みを導入していた。

 駆動系にはゲトラグ製のシーケンシャル・レーシングミッションと機械式LSDを採用。これにより、FFでありながら圧倒的なトラクション性能と変速レスポンスを実現した。

 シェイクダウンの段階から、その仕上がりに驚かされた。車体剛性は完璧で、ブレーキング性能は群を抜いていた。軽量コンパクトなパッケージングも相まって、FFとは思えないほどスムーズに曲がる。

 タイヤはこれが初めてのGT参戦となるトーヨータイヤが強力にバックアップしてくれる。これならGTの舞台でも通用する。そう確信した。

結果が証明した素性の良さ

ポルシェ911を従えるFTO (写真提供:富士スピードウェイ)
ポルシェ911を従えるFTO (写真提供:富士スピードウェイ)

 その速さはデビュー戦となった1998年3月の鈴鹿GT300kmレースですぐに証明された。テイボンFTOは予選でクラス2位!! 決勝は3位表彰台という好成績を収めたのだ。

 一方で、課題もすぐに浮き彫りになった。FFレイアウトゆえに後輪の荷重が軽く、リアタイヤが十分に発熱しないのだ。極端な例を挙げれば、岡山戦では決勝を走り終えてもリアタイヤのトレッドが新品同様に残っていたほど。

 これではグリップを十分に引き出せず、安定性を欠く。さらに、当時GT唯一の供給メーカーとして挑戦していたトーヨータイヤは、他社と混走するレースにおいて“ラバーのピックアップ”問題に悩まされることになった。他社のタイヤカスを拾ってしまい、振動やグリップ不足が顕著に現れるのだ。

 GT300クラスならではの多様な駆動方式のせめぎ合いもあった。RR(リアエンジン・リア駆動)のポルシェ911は、後輪に圧倒的なトラクションを与え、低中速コーナーからの立ち上がりで強烈な加速を見せた。

FTOと同じFF車両としてはセリカがライバルだった
FTOと同じFF車両としてはセリカがライバルだった

 対してMR(ミッドシップ・リア駆動)のトヨタMR2は、旋回性能に優れ、タイトなコーナーでは鋭い切り返しで前に出る。さらにシルビアやRX-7といったFR(フロントエンジン・リア駆動)勢は、安定感ある挙動と旋回性を武器にしていた。

 そこへFFのトヨタ・セリカに加えニューコンテンダーとしてFTOが参戦したのだから、駆動レイアウトの見本市のような混戦が展開されていたのである。

 サーキットごとに有利不利が目まぐるしく変わるのも特徴だった。タイトなS字区やロングストレートの富士ではMR2が速く、FR勢は仙台ハイランドや岡山などタイトコーナーが多いコースで速さを発揮。FTOは菅生や鈴鹿など高速かつテクニカルな難コースで速さを発揮した。

 FTOは軽量かつ高剛性の車体を武器に、ブレーキング勝負や進入の速さで食らいついていった。ライバルが各々のレイアウトの特性を極限まで引き出す中で、FFの限界に臨んだのである。

次ページは : 強豪たちを相手に肩を並べる存在感

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