アメリカ車というと巨体かつ大量のガス食い……というイメージは捨てたほうがいいかもしれない。キャデラック初のEVとなる「リリック」は大きいが、ほどよく未来系。意外とEVも似合うキャディにテリーさんも目からウロコなのだ!!
※本稿は2025年11月のものです
文:テリー伊藤/写真:茂呂幸正 ほか/CG:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2025年12月10日号
「アメリカ車=ガソリンエンジン」は過去の話!?
私の周りにはアメリカ車に乗っている人が少なからずいて、それぞれみんな楽しんでいる。
乗っているのはもちろんガソリンエンジン車だ。テスラという例外はあるし、本国アメリカではEVも意外と多いのだが、日本にいるとアメリカ車にEVのイメージはあまりない。さすがに大排気量エンジンでブイブイ言わせる時代は終わっているとしても、アメリカ車とEVは結びつきにくいのだ。
しかし、それももう過去の話かもしれない。今回乗ったキャデラックのEV「リリック」は、予想の何倍もいいクルマだったのだ。
なんといってもデザインがいい。キャデラックらしさを残しながら未来感を表現している、そのバランスが絶妙なのだ。
SUVのようなワゴンのような、あるいはまた4ドアクーペのようでもあるリリックのデザインは美しく個性的。ほかに似ているクルマがないのが素晴らしい。その姿を眺めていると、「金持ち喧嘩せず」という言葉が思い浮かぶ。
どういうことか。リリックは、美しい妻と賢そうな子どもたちを乗せて、近くの湖にピクニックに出かけるようなシーンが似合うからだ。
それは下界で繰り広げられている、狂信的なトランプ信者と反トランプ活動家の罵り合いなどとは真逆の、まさに「金持ち喧嘩せず」の優雅な世界。アメ車はアメ車でも、野蛮なピックアップトラックとはまったく違う雰囲気を持っているのだ。
ボディサイズは全長4995mm、全幅1985mmと日本では大きいが、全長6m近くのクルマも普通にあるアメリカのフルサイズピックアップに比べればコンパクトなほう。
また、日本での価格は1100万円もするが、アメリカでの価格も日本円に換算すると同じくらいで、円安と向こうの物価を考えると、本国ではそれほど高価なクルマではないとも言える。キャデラックのなかでもカジュアルな部類に入るクルマなのかもしれない。
1950年代のキャディがEVで蘇る!
それでこれだけ優雅な気持ちになれるなら文句なしだが、運転すると、「意外に普通だな」という感想になる。つくづくEVで走りの個性を出すのは難しい。「さすがBMWだ」とか「ホンダらしい」などという言葉は出てこない。走りの「味」は、やはりエンジンでないと出てこないのだ。
しかし、そんなことを言っているのは、今や少数派なのだろう。「EVはつまらない。エンジン最高!」という勢力は、もはや五稜郭の土方歳三のように追いつめられている。
普及が予想より遅れているとはいえ、長い目で見れば、少なくとも先進国ではEV化が進むのは確実。
「走りの味」がどうしたこうしたと言っていられるのも今のうちかもしれない。そうであれば、「こんなEVなら歓迎だ」と思えるリリックの存在はとても心強い。
私ならリリックをペパーミントカラーにして、思い切り陽気なクルマにするだろう。都会派のイメージが強い「金持ち喧嘩せず」が基本のクルマだが、逆にだからこそ、まったく違う一面を引き出せるのだ。
フロリダのビーチで、女の子とソフトクリームを食べているイメージ。リリックはフィフティーズが似合う。1950年代、V8エンジンで全米を席巻していたキャデラックが今、EVで蘇るのである。
ベストカー編集部に「私ならこうする」というリリックをCGで作ってもらった。ラッピングでできる現実的なドレスアップで、大きく印象を変えられることがわかっていただけるだろう。もちろん、素材がいいからできることである。
アメリカ車は「陽気」が似合うのです! トランプさんに会って、熱く訴えかけたいくらいである。
●キャデラック リリック SPORT(1100万円)
2025年5月に日本に導入されたキャデラック初のEV。
日本仕様は右ハンドルのSPORTワングレードで、ボディサイズは全長4995×全幅1985×全高1640mm、ホイールベース3085mm、車重2650kg。
95.7kWhのリチウムイオン電池、システム出力522ps/62.2kgmの前後モーターを搭載する4WDで、航続距離は510kmとなっている。



















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