2026年4月1日から自転車での交通違反に青切符制度が導入される。交通ルールの周知徹底などが重要になるが、それでもやむを得ず「自転車で事故にあった/事故を起こした」場合にはどうしたらいいのか? 法律のプロである弁護士の永岡孝裕氏にお話を伺った。
※本稿は2025年11月のものです
文:永岡孝裕(弁護士)、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部、AdobeStock(トップ画像=yamasan@AdobeStock) ほか
初出:『ベストカー』2025年12月26日号
ドライブレコーダーの映像を警察に提出する義務はあるのか?
ベストカー:今やクルマではドライブレコーダー(以下ドラレコ)の装着が当たり前になってきました。自転車用も販売されていますが、このドラレコの映像は警察に提出する義務があるのですか?
永岡:提出の義務は一切ありません。任意提出です。したがって、自分が不利になるような状況が映っているのなら、自ら提出する必要はまったくありません。
ベストカー:自分が有利になる時には出せばいいということですね。
永岡:そのとおりです。ただ、ドラレコの画像が決定的な証拠となるような重大な事件で、捜査に必要だと判断されれば、警察が令状を取って強制的に差し押さえることはあり得ます。
ベストカー:そのような時、警察に差し押さえられる前に、SDカードを抜いて捨てたりとか、破壊したりするとどうなるのですか?
永岡:それ自体が直ちに犯罪になることはありません。刑法上、証拠隠滅罪という犯罪がありますが、これは「他人の」刑事事件に関する証拠を隠滅した場合に成立するものです。自分自身の犯罪(違反)に関する証拠隠滅行為については、証拠隠滅罪として罪が上乗せされることはありません。
ただし、もし裁判になった場合、証拠隠滅を図ったという事実が「反省していない」「悪質である」と裁判官に判断され、刑の重さを決めるうえで不利に働く可能性はあります。
ベストカー:やっぱり、警察の心証はよくないですよね。どこかやましいことがあるのではと思われてしまいそうです。
永岡:確かにそうですが、心証が悪いという理由で罪に問うことはできません。ドラレコの映像の提出義務がない以上、自分にとって都合が悪ければあえて提出しないのは当然の権利です。
逆に、明らかに相手の非が問える有利な状況であれば提出すればいい。これは憲法上も保障されている、自己負罪拒否特権(自分に不利益な供述を強要されない権利)に基づくものであり、正当な防御権の一環として認められています。
事故の際に弁護士に依頼するケース&しないケース
ベストカー:自転車で事故を起こしたり、遭った時のことについて伺います。自転車の保険に加入していても弁護士特約がない場合は、個人で弁護士にお願いするのがいいのでしょうか?
永岡:まず、ご自身が加害者として賠償金を支払う場合、ご自身が任意保険に加入していれば、基本的には保険会社に任せることになります。加入している保険会社が、ご本人(加害者)に代わって相手方と示談交渉を行います。その交渉は保険会社に任せておけばいい、ということです。
ベストカー:では、自転車で事故を起こした場合、弁護士さんに依頼するのはどういったケースでしょうか?
永岡:まず、ご自身が加害者になってしまい、任意保険にまったく入っていないというケースです。相手に怪我をさせてしまった場合、精神的にも負担の大きい示談交渉をすべてご自身で行うことになります。適正な賠償額を決めるためにも、弁護士に依頼することを強く推奨します。
ベストカー:そのほかにもありますか?
永岡:加害者になった場合の補足となりますが、相手に怪我をさせた事故が刑事事件になった場合です。民事の賠償責任(示談交渉)とは別に、刑事裁判が開かれる可能性があります。民事の交渉はご自身や保険会社で対応できても、刑事裁判の弁護は弁護士が必須となります。
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