■「プロダクトアウト」からの脱却
ホンダのモノづくりと世の中の動きとのズレは、プロダクトアウトとマーケットインという考え方で説明できる。
プロダクトアウトとは、「いいモノを作れば売れる」という商品を最優先に考えたモノづくりだ。ホンダに限らず、旧来の日本製造業ではプロダクトアウトは一般的だ。
戦後、アメリカに追いつけ追い越せという企業姿勢のもと、製品の性能とクオリティを高め、さらに「より安く」という信念のもと、日本車を筆頭とする日本製品は世界市場における最良の大衆向け商品として普及してきた。
自動車メーカーの場合、プロダクトアウトになりやすい社内体制がある。ひとつのモデルを作る場合、開発総責任者であるチーフエンジニア、主査、またはホンダでいうLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)の個人的な感性や性格、また“好き嫌い”に左右されやすい。社内の個人商店のような位置付けが長らく続いた。
ホンダの場合、研究所という閉じた空間でモノづくりに集中するため、LPL制度がうまく動けば「よりよいモノ」ができるが、うまく動かなければ「LPLの独りよがりのモノ」になる危険性がある。
むろん、ホンダはそうした懸念を充分に理解したうえで、近年は研究所と本社との連携を強めてきた。そして消費者目線でのモノづくり方式である、マーケットインを強く意識するようになった。マーケットインとは「売れるものを作る」という、プロダクトアウトとは180度反対のモノづくりだ。
ところが、こうした単純なマーケットインの発想が通用しない時代となってきた。そのため本社と研究所の両輪体制では、時代変化に追いつけなくなってきたのだ。
■キモは自動車流通革命だろう
では、自動車産業における「時代変化」とは何か?
一般的には、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)による「100年に一度の大変革」が、時代変化だと説明されることが多い。
独ダイムラーが2010年代半ばに自社のマーケティング用語として使い、大手メディアがCASEを一般名詞のように扱うようになった。
また、公共交通再編という文脈で、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)という言葉も、経済メディアでは近年、「時代変化の象徴」として数多く目にするようになった。
筆者は、各国の中央行政機関、地方自治体、自動車産業界の民間企業各社と、CASEやMaaSについて議論することが多い。ホンダとの間でも、さまざまな機会でホンダにおけるCASEやMaaSについて意見交換している。
そうしたなかで思うのは、今回のホンダの四輪事業における本社・研究所の一体化でキーとなるのは一般的なCASEやMaaSではないと思う。
キモは、ホンダとユーザーの間、またはホンダとディーラーの間での、新しい関係性だと思う。端的に表現すると、自動車流通革命である。
要するに、社会のなかのクルマの在り方が大きく変わる。だから、ホンダは今、大きく変わる必要がある。
研究所発足からちょうど60年目、次世代ホンダ構築のためのチャレンジが始まる。
【番外コラム】フィリピンにおける四輪完成車生産終わる
ホンダは、現在 四輪完成車の生産と販売を行っているホンダ・カーズ・フィリピン・インコーポレーテッドの四輪完成車の生産を、2020年3月をもって終了することを決定した。
これはフィリピンユーザーのニーズにあった商品を適正な価格で提供するには、効率的な資源配分・投入が必要であり、アジア・大洋州地域における適正な生産体制を検討した結果、フィリピンでの四輪車生産を終了することを決定したという。
ホンダ・カーズ・フィリピン・インコーポレーテッドは1990年設立。従業員は約650名。
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