先行きの見えないコロナ禍。自動車業界も大きく打撃を受けているが、忘れてはいけないのがバスへの影響だ。
ベストカーが擁するバス専門誌『バスマガジン』によると、観光バスや高速バスが特に大きな影響を受けているという。
都道府県をまたいだ移動の自粛が必要となり長距離バス移動が実質的に難しいこと、そしていわゆる「3密」に当てはまるバスの環境が大きな要因となっている。
専門家に現況を解析してもらい、今後のバス業界がいかに難局を乗り越えていくのか分析してもらった。
文/写真:バスマガジン編集部
※画像はすべてイメージで特定の事業者の状況を示すものではありません
■「新型コロナウイルス」の感染拡大で、バス業界が大ピンチ
異変は2020年1月下旬に始まった。中国が海外への団体ツアーを禁止したのだ。中国発のツアーの運行を請け負う日本の貸切バス会社は中小企業が多く、事業停止に追い込まれた会社もあった。
その後、国内旅行会社のバスツアーや、団体旅行も中止が相次ぎ、貸切バスの稼働が急低下した。
2月下旬になると、大型イベントの自粛を政府が要請したのを機に、出張、帰省、それにテーマパークやコンサート、有名店でのショッピングなど大都市での消費活動といった分野で自粛が始まった。
国内の長距離移動が激減し、高速バスにも運休が出始めた。4月22日現在、長距離の夜行路線はほぼ全路線が運休し、短・中距離の昼行路線は2~3割程度まで減便が進んでいる模様だ。
その間、各バス会社は運休の対応に追われた。予約済みの乗客への連絡や、国への届出などだ。なお本来、高速バスの運休や減便は7日前までの届出が必要だが、柔軟な対応が進み、即日運休できた路線もあった。
もともと貸切バスは、旅行形態が団体ツアーから個人自由旅行に変化が見込まれる中で、将来は厳しいと考えられていた。
一方、高速バスは、全国で毎日約1万5000便が運行され、利用者数は航空国内線を上回るなど、特に地方部において「都市への足」として定着していただけに、誰もが予測しない事態を迎えている。
国による支援も進んでいる。4月1日、「雇用調整助成金」に特例措置が導入された。事業活動が縮小しても雇用を維持した企業に対して国が助成するもので、特例として対象や金額が拡大されたのだ。
これを原資として、貸切バスや高速バスに特化した会社では基本給を支給しつつ、乗務員を休業させることができた。また路線バスを兼業する大手バス会社らは、貸切や高速を担当する乗務員が一時的に路線バスに乗務するなど社内で調整を図っている。
しかし助成金を受け取っても、乗務員にとっては残業手当などの分の収入は減少するし、会社にとっても助成金と給与の差額は“持ち出し”になるなど課題もある。
それでも貸切バス、高速バスの乗務員は相当のスキルを求められるため、簡単にクビを切るというわけにはいかない。多くの会社で燃料代や有料道路料金を負担して運行するより、赤字をこれ以上膨らませないことを選択した。
■コンサルティングのプロが指摘する今後のバス業界
コンサルティング会社、「高速バスマーケティング研究所」の成定竜一代表は、「雇用の維持は乗務員本人とってはもちろん、会社にとっても最優先。いまは経営体力の温存を図る時期」と話す。
また路線バスの分野では違う影響が出ている。在宅勤務の増加や休校により、日常の通勤通学需要が減少。その一方で、公共交通機関として大規模な減便や運休も難しい。
「移動を減らす」という社会的要請と、「通院や買い物など生活に必要な移動手段を提供する」という公益性の狭間で揺れている。
足元では、毎年4月に見込まれる通勤/通学定期券が売れず、キャッシュが不足。また、地方部の路線バスは、国や自治体から補助金を受け取って運行しているが、補助金の額は制度で決まっており、急な増額は難しい。
バス業界はこれからどうなるのか? 貸切バスや高速バスの分野では、ウイルスの拡大がある程度収束し復興フェーズに移った後、国による観光需要喚起策が相当な規模で実施される見込みだ。
今回の「コロナショック」ではこれまでの震災や水害と比べると、航空や新幹線などの鉄道、高速バスといった幹線輸送(公共交通による長距離移動)が大きな打撃を受けたのが特徴だ。
そのため、「コロナ後」には公共交通を利用して旅行や帰省を行った際に使えるクーポン券を発行するといった政策を期待したい。
前出の成定代表によると、国土交通省からのメッセージや、鉄道、バス、タクシー、福祉輸送などの現状と取り組み事例を紹介したうえで、国や社会に対して緊急提言を表明する予定という。
高齢化が進むこの国では、自力でのクルマ移動に頼ることのできない人はますます増加する。
地域交通をどう守るかは、今後の日本社会のデザインと直結する。「withコロナ」時代の交通のあるべき姿を目指して、挑戦はすでに始まっている。
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