単なる「サーキットのラップタイム」だけでは語れない、スポーツカーの本質的な価値とは何か。時代を動かした革新的な技術、常識を覆す独創的な発想、そしてレースへの情熱──これらが融合したとき、クルマ好きの心は激しく揺さぶられる。
文:中谷明彦、ベストカー編集部 鈴村朋己/写真:ベストカーWeb編集部
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スポーツカーの本質とは?
これまで数多くの国産スポーツカーに接してきたが、「最も衝撃を受けたクルマは何か」と問われると、単純に速かったモデルを挙げるだけでは答えにならない。スポーツカーの価値はサーキットのラップタイムだけでは決まらないからだ。
その時代において常識を覆した技術、誰も思いつかなかった発想、あるいはレース技術を惜しみなく市販車へ投入した挑戦。それらが組み合わされて初めて車好きは衝撃を受ける。そうした視点から振り返ると、いくつか忘れられない国産スポーツカーが存在する。
まず、最初に挙げたいのはフェアレディZ432だ。このクルマが衝撃だった理由は絶対的な速さではない。搭載されたS20型直列6気筒DOHCエンジン、それはスカイラインGT-R(通称ハコスカ)に搭載され圧倒的な強さを示したレースに勝つためのエンジンという事実だった。Z432のネーミングは4バルブ、3連キャブレター、ツインカムシャフトから授けられている。
もともとこのエンジンはスカイラインGT-Rのために開発されたものであり、そのルーツをたどれば日産が日本グランプリを戦うために製作したR380の純レーシングエンジンGR8系に行き着く。当時としてはレーシングエンジンそのものと言っても過言ではない設計思想を持ち、スカイラインGT-Rや2ドアGTスポーツのフェアレディZといった市販車に搭載したこと自体が驚異だった。
もちろん現在の基準で見れば、シャシー性能もタイヤもブレーキも現代車には及ばない。しかし当時、このエンジンを手に入れられるという事実だけで多くのスポーツカーファンは胸を躍らせたはずだ。
フェアレディZ のモータースポーツシーンでの活躍といえばZ 432よりも2.4L直6エンジンを搭載した240Zの方が煌びやかだったかもしれない。240Zは富士スピードウェイで開催されていたグランドチャンピオンレース(通称グラチャン:GC)では、大雨のレースで2シーターの本格的レーシングマシンを抑え、総合優勝を果たした実績もある。
Z432はあまりにも特殊で、市販車としての完成度よりも「レーシングカーの心臓を持つ」というスペックそのものに価値があったと言えるのである。
レース用エンジンを市販車にそのまま搭載!?
同じ意味で忘れられないのが三菱ギャランGTO―MRだ。市販仕様は1600cc直列4気筒DOHCを搭載していたが、その裏ではさらに大胆な計画が進められていた。
当時、富士グランドチャンピオンレースで活躍していたレーシングエンジン、R39B型2L・4バルブDOHCをそのまま搭載する構想が存在していたのである。1970年の東京モーターショーでプロトタイプGTO-R73Xでその計画が明らかになったとき、多くのファンが実現を信じて疑わなかった。しかしオイルショックによって計画は消滅する。
今で言えばF1用パワーユニットをそのまま市販車へ載せるような発想であり、そのニュースだけでも十分に衝撃的だった。もし実現していれば、日本のスポーツカー史はまた違ったものになっていたかもしれない。実際の性能は未知数だったとはいえ、その挑戦する姿勢こそ評価されるべきなのである。
そして実際に走りで衝撃を受けた一台が、マツダの初代RX-7(SA22C)だった。まずデザインが美しい。ロングノーズ・ショートデッキを基本としたウェッジシェイプは、それまでの国産車にはない伸びやかなフォルムを実現していた。リトラクタブルヘッドライトを備え、後席はエマージェンシーシート程度の実質2シーター。まさに純粋なスポーツカーだった。
さらに注目すべきは、そのパッケージングである。コンパクトな12A型ロータリーエンジンをフロントミッドシップに近い位置へ搭載し、重量配分を最適化。FRレイアウトとの組み合わせによって非常にバランスの取れた運動性能を実現していた。
その実力は筑波サーキットではっきり証明された。当時、一周1分20秒を切ることは極めて困難だった。スカイラインGTが1分20秒台。セリカ2000GTが1分18秒台。その中でRX-7は16秒台という驚異的なタイムを記録する。数字だけ見ればわずか数秒の違いだが、サーキットではまったく別次元の速さだったのである。
しかも限界域でのコントロール性が素晴らしかった。スライドしても唐突な挙動変化はなく、ドライバーが自在に姿勢を操れる。現在マツダが掲げる「人馬一体」という思想は、この初代RX-7の時点ですでに完成されていたと言ってもよい。
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