ただ豪華なだけではない、名車とはなにかを教えてくれる存在
しかも当時、このV12エンジンをベースとしたユニットはマクラーレンF1 GTRやBMW V12 LMRにも採用され、自身もドライブしたル・マン24時間レースでその耐久性を証明していた。そうしたモータースポーツでの実績も、このエンジンへの信頼をさらに高めていた。
750iLは740iより約14cmホイールベースが長く、そのほとんどが後席スペースに充てられていた。後席には電動リクライニングが備わり、サンシェードやテーブル、シートヒーターなども装備される。当時としては驚くほど贅沢な空間だった。
サイドウインドウには二重ガラスが採用され遮音性も極めて高い。外界から切り離されたような静寂の中で、V12エンジンはほとんど音も振動も感じさせず、滑るように加速していく。約1.7tの車重をまったく感じさせない操縦性と、しっとりとしたステアリングフィール。
この「滑らかさ」と「安心感」が絶妙なバランスで共存していた。そして、この乗り味こそが現在でもクルマ評価の原点となっているのだ。
「乗り味が同じ理由」に納得! レンジローバーとの意外な系譜
興味深いことに、その感覚を再び味わえたクルマが1台だけ存在した。2002年に登場したレンジローバーである。
自身750iLで試乗会場へ向かい、そのままレンジローバーへ乗り換えた瞬間「これは750iLと同じ乗り味だ」と驚いたのを覚えている。
試乗後、その感想を独人の開発エンジニアへ伝えると、彼は満足そうに微笑み「そう感じるのは当然だ。私がE38型7シリーズを開発し、BMW社を辞めてこのレンジローバーの開発も担当したのだから」と答えたのである。表に停めてある750iは君の車だったのだね、と笑っていた。
さらに彼は、その乗り味の秘密まで教えてくれた。鍵となるのはフロントサスペンションを支えるクロスメンバーであり、レンジローバーにはE38型と全く同じクロスメンバーを採用していたという。そのサプライヤーとの関係まで含めて、この構造がなければ独特の乗り味は再現できないと語っていた。
その違いに気付いてもらえたことを彼自身がとても喜んでくれたことも印象に残っている。そして彼は最後に「E38型7シリーズは20世紀最高傑作だ」と断言した。私はその言葉に全面的に賛成である。
E38が「20世紀最高傑作」であり続ける理由
もちろん欠点もあった。街乗りでは燃費は5km/L前後、100Lタンクへハイオクを満タンにすれば維持費は決して安くない。それが理由で最終的には手放すことになった。それでも、もし十分な保管場所と維持する余裕があるなら、今でも再所有したい一台だ。
自身は実は750iを2台所有した。1996年式と最終型となる2001年式である。装備面では2001年型の方が進化しており、ワイドナビやルーフアンテナなど現代的な仕様になっていた。
しかし、大型バッテリーをトランクへ2基搭載するなど重量配分にはやや無理があり、完成度という意味では初期型の1996年モデルの方が優れていたという印象だ。
実際、熱心なオーナーの中には1998年以前の完成度が高い車体へ後期型のナビやアンテナだけを移植して乗り続ける人もいた。それほどまでにE38型7シリーズは多くのオーナーを魅了し続けたクルマだったのである。
時代は変わり、自動車は電動化やデジタル化が急速に進んでいる。しかし、ドライバーがステアリングを通じて感じる安心感や、路面をいなすサスペンションの上質さ、長距離を走っても疲れない乗り味といった価値は、決して色褪せるものではない。
だからこそ私にとってE38型BMW 7シリーズは、今なお「買い戻したい一台」であり、20世紀最高傑作車として、そのドライブフィールを感じ続けていたいと思うのだ。
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