欧州セダンが追求する疲れない後席
そこで求められる快適性は単純に「室内が広い」ということではない。ここが非常に重要だ。日本では後席を快適にしようとすると、すぐにミニバン的な発想になる。頭上空間を広げる。足元を広げる。シートを大きくする。オットマンを付ける。大型モニターを付ける。
もちろん、それも快適性のひとつである。しかし欧州のセダンが長年追求してきた快適性は、それとは少し違う。走っているときに乗員を疲れさせないのだ。
たとえばピッチング。高速道路で路面のうねりを通過したとき、クルマがいつまでも上下方向に揺れていたら後席の乗員は疲れてしまう。左右方向も同じだ。レーンチェンジをしたときにロールが大きく残ったり、ステアリング操作に対してヨーが急激に立ち上がったりすれば、ドライバー自身はそれを予測して操作しているから対応できるが、後席の人には突然の動きとして伝わる。
ここがドライバーとパッセンジャーの決定的な違いだ。運転している人間は、これからブレーキを踏むことを知っている。ステアリングを切ることも知っている。アクセルを踏むことも知っている。ところが後席の乗員は知らない。
だから同じ加速度でも、パッセンジャーのほうが不快に感じやすい。いいセダンというのは、そこまで考えて作られている。ホイールベースを長くすることにも意味がある。前後輪の距離が長くなれば、路面のうねりに対するピッチングを抑えやすくなる。また後席乗員を後輪の真上から離して配置しやすくなり、後輪から入力されるショックの感じ方も変わる。
ホイールベースを伸ばすだけではダメ!
ただし、ホイールベースを伸ばせばそれだけで高級車になるわけではない。サスペンションのストローク、ダンパーの減衰特性、ブッシュ剛性、ボディ剛性、シートのクッション特性まで含めて作り込まなければ、本当の意味での快適性は得られない。
さらに高速走行では空力も効いてくる。セダンはSUVに対して前面投影面積を小さくでき、空気抵抗を低減しやすい。重心も低い。高速域で横風を受けたときの安定性やステアリング修正量を減らすという意味でもセダンの低い車体にはメリットがある。
そして高速道路を何百kmも移動するような使い方では、この小さな違いの積み重ねが疲労度に大きく効いてくる。
日本ではアルファードが担った役割
日本ではこの役割をミニバンに担わせるようになった。後席に大切な人を乗せるなら「アルファード」という価値観が確立したのは象徴的だろう。広いし、乗り降りもしやすい。後席には豪華なシートや装備があり移動中もくつろげる。日本国内で使う限り、それは非常に合理的な選択だと思う。
しかし走るという性能だけを取り出せば、車高が高く、前面投影面積が大きく、重心も高いミニバンが物理的にセダンより有利になることはない。そこを電子制御サスペンションや高性能ダンパーなどによって補おうとしているわけだ。
逆に言えば、セダンには最初から物理的に有利な条件が揃っている。重心が低い。前面投影面積が小さい。キャビンとトランクが分離されている。そしてホイールベースを十分確保できる。高速で長距離を移動する乗り物として考えれば、実は非常に合理的なパッケージなのである。
だから欧州メーカーはセダンを簡単には捨てないのだ。そして中国市場では、そのセダンをさらにロングホイールベース化している。面白いのは、Sクラスや7シリーズだけではなく、Cクラスや3シリーズにまでそれが存在することだ。




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