輸入車の代名詞のひとつであるメルセデス・ベンツ。日本では、古くから親しみを込めて「ベンツ」と呼んできたが、世界的には「メルセデス」と呼ぶことが一般的といわれる。いったいどう呼ぶのが、正しいのか!?
本稿では、メルセデス・ベンツジャパンに尋ねてみた。以下、その回答も含め、日本で最もポピュラーな輸入車ブランド、メルセデス・ベンツ呼び方について掘り下げていきたい。
文:大音安弘
写真:Daimler AG.、編集部
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「全世界で“メルセデス”を推奨しています」
2019年の輸入新車登録台数ナンバー1に輝くなど、今も絶大な人気を誇るメルセデスベンツ。日本では「ベンツ」と呼ぶのが一般的。バブル期に大人気となった190Eは、「小ベンツ」の愛称で親しまれた。
ところが、2018年秋に導入された3代目Aクラスに搭載されるインフォテイメントシステム「MBUX」の音声認識機能は、会話調で音声操作ができることが売りなのだが、その起動キーワードは、「ハイ! メルセデス」。これに違和感を覚えたユーザーもいるはずだ。
その理由を探るべく、メルセデス・ベンツ日本に問い合わせると、「メルセデス・ベンツの略称は、全世界で“メルセデス”を推奨しています」とのこと。
もちろん、ベンツという呼び方についても、完全にNGというわけではないと前置きしたうえで、
「古くから“ベンツ”と呼ばれていますが、その一方で、そこに良いイメージを持たない方もいらっしゃると思います」
「ですから、“メルセデス”は、女性の名前でもありますから、親しみも感じていただきやすいのではないでしょうか。ぜひ今後は、“ベンツ”と呼んで頂いている方にも、“メルセデス”と呼んで頂ければ幸いです」
との回答を得た。
世界では“メルセデス”が主流も中国は“ベンツ”!?
そもそも「メルセデス」の由来だが、それはダイムラーとベンツが手を組む前の19世紀末まで遡る。
この頃、ダイムラー車の総販売権を取得していたオーストリア・ハンガリー帝国の領事エミール・イエリネックが、愛娘メルセデスの名をダイムラー車につけて販売。レースでも好成績を収めることができたなど幸運に繋がったことで定着していったようだ。
つまり、欧米で、古くから親しまれた車名なのである。また英語やフランス語では、クルマを女性名詞として扱うことも、女性名が馴染んだ理由のひとつだろう。またイエリネックが、ダイムラーという響きの重厚さを避けたこともあるようだ。
そこで主要市場であるドイツや米国での呼び方を調べると、ほぼ「メルセデス」と呼んでいるそう。
では、新たな巨大市場となった中国ではどうなのだろうか。駐在中の日本人ビジネスマンの協力で調べてみると、意外な結果が判明。
なんと中国人も一般的には「奔驰(ベンツ)」と呼んでいるそう。因みに、メルセデス・ベンツの中国語表記は、「梅赛德斯奔驰」となる。
吉田茂元首相もベンツと呼んだ!?
日本人がベンツと呼ぶようになった時期は定かではないが、こんな逸話がある。
著名なメルセデス・ベンツオーナーの一人として知られる吉田茂元首相は、現役時代、1951年に訪問した西ドイツで、アデナウアー首相(当時)とドイツ車購入の約束をするも、時代背景から長らく約束を果たすことができなかった。
それから12年を経た1963年、念願のドイツ車メルセデス・ベンツ 300SEロングを購入。アデナウアー氏に、「われ約束を果たせり。新しいベンツに本日から乗っている」と報告の電報を送っている。
電報による事情も鑑みられるが、選ばれし者しか手に入れられなかった時代から、ベンツと親しみを込めて呼んでいたことが伺えるエピソードのひとつだ。
また、日本でのクルマの愛称を思い起こすと、スカイラインGTを「スカG」、トヨタスポーツ800を「ヨタハチ」、初代セリカの「ダルマ」など3~4文字に略すことが多いよう。その感覚が、「ベンツ」という呼び方にマッチしたのかもしれない。
実際に、輸入車でも、フォルクスワーゲンを「ワーゲン」やキャデラックを「キャデ」と呼び親しんだ。
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