■「クーペの凋落」の背景にあったもの
1980年代には一世を風靡した「プレリュード」というブランドがなぜ消滅してしまったのか?
その理由は、毎週金曜公開の本コーナーでは繰り返し述べられてきた「クーペ人気の凋落」であり、それ以上でも以下でもありません。
5代目プレリュードは、フルモデルチェンジを行った同門のインテグラに統合される形で消滅したわけですが、そのインテグラも、2001~2007年の4代目を最後に廃番となってしまいました。
それゆえ、ここについてはこれ以上「脳内議論」を重ねても意味はないため、議題を変えたいと思います。
新たな議題は「それではなぜ、クーペ人気は凋落したのか?」ということです。
もちろん、筆者はこれについての正解を知る立場にはありませんが、あくまで推論として、2つの理由があるのではないかと思っています。
ひとつは「箱型自動車の性能向上」でしょう。
3代目ホンダ インテグラのような2ドアクーペが大人気だった1980年代は、バンやライトバンといった箱型自動車の走りは「かなりイマイチ」であるのが常識でした。
しかし初代スバル レガシィが登場した1989年頃から、あるいは初代トヨタ エスティマが登場した1990年あたりからその「常識」は覆りはじめ、箱型であっても、その走行感覚が「けっこういい」あるいは「さほど良くはないけど、そんなに悪くもない」というモデルが増えてきました。
そして現在は、箱型であっても「かなりいいじゃない!」と思える車も多いことは、皆さんよくご存じのとおりです。
そうなってくると、「気持ちよく走れはするけれど、人や荷物を載せるにはかなり不便」なクーペではなく、何かと便利な箱型の車を選ぶ人が増えてくるのは、きわめて自然な流れだと言えるでしょう。
しかしそれと同時にあるもうひとつの理由が、「余裕があるんだか無いんだかよくわからない、なんとも微妙な世の中になってしまったから」なのではないかと、筆者は推測しています。
2代目プレリュードが登場した1982年の日本のGDPは約282兆円で、3代目が登場した1987年は約366兆円。
それに対して、プレリュードが消滅した2001年のGDPは約523兆円で、直近の2019年では約557兆円に達しています。
統計データ上は「かなり豊かになっている」わけであり、さまざまな社会インフラも、昭和の時代と比べれば格段に発展し、充実しています。街もキレイになりました。
しかし、普通に暮らしている我々一般市民のマインドはどうかといえば……もちろん人にもよるでしょうが、「そうだね! オレもウルトラ豊かになって余裕たっぷりだよ!」という人は少数派なのではないかと思います。
筆者を含む多くの庶民は、昔と比べれば小ぎれいな服を着て、「便利さの象徴」であるスマートフォンを1人1台所有しながらも、未来に対する漠然とした不安を、実は常に抱えているのではないでしょうか。
そしてそうなってくると、仮に手元に多少のカネがあったとしても、人も荷物もロクに載せられないクーペなどという「穀潰し」を攻めの姿勢で購入するのではなく、「それ1台でいろいろな役に立つ(かもしれない)」箱型のほうを買っておこう――という、言わば守りの姿勢に入ってしまうのが「人情」というものでしょう。
まぁわかりませんが、「クーペ人気の凋落」というのは、結局はそういったことが根本的な原因なのではないかと、筆者は考えています。
■ホンダ プレリュード(3代目)主要諸元
・全長×全幅×全高:4460mm×1695mm×1295mm
・ホイールベース:2565mm
・車重:1160kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1958cc
・最高出力:140ps/6000rpm
・最大トルク:18.0kg-m/4500rpm
・燃費:10.4km/L(10モード)
・価格:208万1000円(1988年式2.0Si 4WS 4AT)
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