国内の新車販売は、軽自動車のスーパーハイトワゴンと、登録車ではSUV(スポーツ多目的車)に人気が集中し、そこにコンパクトな2ボックス車が加わる様相だ。
そのコンパクト2ボックス車では、2020年モデルチェンジで新装となった「フィット」や「ヤリス」が注目されるが、実は、スズキ「スイフト」が一般社団法人日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車ブランド通称名別順位で20位台を守り、堅調な販売を続けているのである。
現行スイフトは、2016年にモデルチェンジをして4代目となっている。すでに4年目に入る車種として、その販売成績は堅実といえる。たとえば、モデルチェンジをする前のヴィッツやフィットと同程度の販売台数で推移をしており、ヴィッツ(ヤリス)とフィットが先にフルモデルチェンジして、差が生まれているという状況だ。
なおかつ、標準車とほぼ同等といえる台数を、スイフトスポーツが得ている。その理由はどこにあるのだろうか?
文/御堀直嗣
写真/SUZUKI、編集部
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■2ボックス車に生まれ変わった2代目から人気急上昇
スイフトは、2000年に初代が登場しているが、今日の人気を呼ぶきっかけとなったのは、2004年にフルモデルチェンジをした2代目からだ。
初代は、クロスオーバーといえるような、乗用とSUVを兼ねたような車種であった。2代目から、コンパクトカーの王道というべき2ボックス車として生まれ変わった。それに際し、欧州車の走りに通じる徹底した操縦安定性の作り込みが行われ、自動車評論家をはじめ市場でも高い評価を得た。
今でも忘れられないのは、最も廉価なマニュアルシフト車を運転した際、たとえばフランス郊外の道を80km/hで走った時に、運転感覚も乗り心地も最大の喜びを得られるような仕立てであったことだ。その証とでもいうべき日本カー・オブ・ザ・イヤーのモストファン特別賞を受賞している。
走りの快さは3代目へも引き継がれ、4代目の現行車にも通じる。現行車では、ガソリンエンジン車のほかにマイルドハイブリッドと、約1年遅れてハイブリッドが適用され、より上質で快適な乗り心地が高められている。もちろん、5ナンバー車である点も見逃せない。
価格も競争力を備えており、最も廉価な車種は約137万円から(ただしセーフティサポート非装着)購入できる。最上級のハイブリッド車種で全方位モニター用カメラパッケージ装着車でも、約214万円で買える。
ガソリンエンジン車では、自動変速(オートマチック)だけでなく手動変速(マニュアルシフト)も選べるところが、近年の新車では希少な一台といえるだろう。
ヤリスもスイフトとほぼ同額のエントリーモデルという廉価車種を設定しているが、変速機はCVT(ベルト式無段変速機=自動変速)しか選べない。ホンダ「フィット」のベーシックというグレードは、スイフトやヤリスよりやや高い約148万円からという価格となり、全車種でマニュアルシフトの選択肢はない。
スイフトは、価格競争力を備えながら、マニュアルシフトの選択肢を廉価車種にも用意している点に目を向ける消費者があるはずだ。
■日本で唯一無二の存在になったスイフトスポーツ
では主役の「スイフトスポーツ」の人気に目を向けてみよう。
価格は約187.4万円(セーフティサポート非装着者:受注生産)で、200万円を切る。しかしそれは受注生産なので、普通に注文すると約202万円からとなる。それでも、標準のスイフトの最上級車種が約209万円からだから、それより安い。
実はヤリスもそれに対抗するような187.1万円でガソリンエンジンの6速MT車を買えるので、この両車がよい競合となりそうだ。ただ、ヤリスが全車種5ナンバーであるのに対し、スイフトスポーツは3ナンバー車になる(標準車は5ナンバー)。
ヤリスとの比較では、1.5L直列3気筒自然吸気エンジン+6速MTであるのに対し、スイフトスポーツは直列4気筒ガソリンターボ+6速MTで、排気量はヤリスに比べ100ccほど小さい1.4Lだが、最高出力は140psでヤリスの120psを上回る。ターボと自然吸気のどちらがいいかという話ではないが、ターボエンジンの伸びやかな加速を味わえるのがスイフトスポーツだ。
近年のターボエンジン車というと、燃費重視の過給傾向となり、スポーティな車種でのターボエンジンでは、ほかにはスバルの「WRX STI」ということになるだろうか。となると価格は400万円前後となり、スイフトスポーツの2倍になってしまう。車格が上ということだろう。
諸元などを詳細に見比べてみると、スイフトスポーツはほかにはない唯一無二の存在であり、手の届く価格帯にあって、そのうえ欧州に通じる操縦安定性を磨き続けてきたという期待と信頼がある。
これという、何か大きな目玉があるわけではない。だが、永年積み上げてきた着実な進歩を体感でき、マニュアルシフト(ATの選択肢もある)で手足を自在に使って操る嬉しさを覚えさせる小型2ボックスカーが、スイフトスポーツといえそうだ。
クルマと人との関係を、簡素に、素直に味わえる原点がそこにある。それはたとえば、マツダのロードスターのような味わいや関係といえるかもしれない。それでいて、2人乗りや荷物が限定されるロードスターと違う実用性、日常性のある嬉しさを、スイフトスポーツは兼ね備えているのである。広く愛される理由が、そこにありそうだ。
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