ロシアは右側通行、つまり左ハンドルの国だが、街中では多くの右ハンドル車を見かけるという。この右ハンドル車の多くは、日本から輸出された中古車などだ。
ロシアにもメーカーがあり、SUVのラーダ 4×4(旧車名ニーヴァ)は日本でもファンが多く、輸入販売もされている。しかし日本車はこれら左ハンドル車を上回る人気があるようだ。
ロシア国内で流通する右ハンドル車について、小林敦志氏にレポートしてもらおう。
文・写真/小林敦志
【画像ギャラリー】本文未掲載車も! ロシアで走る中古日本車を街角ウォッチング!!
■ロシアは日本製中古車の一大市場
ロシアのとくに極東地域では、例えばウラジオストクなどからのニュース映像を見ていると、街なかを日本から輸出された右ハンドルの中古日本車ばかりが走っているのを見かけたひとも多いはず。
地理的に日本に近いことと、新車を購入するより、圧倒的に安いのに、品質や性能のよい日本からの日本車の中古車に需要が集まるのは当たり前といえば当たり前の話。
しかし筆者は、それはあくまでも極東ロシア地域だけの話かと思っていたが、2008年に初めて首都モスクワを訪れると、街なかで頻繁に日本から輸入されたとみられる、右ハンドルの中古の日本車を多数見かけることができた。
極東のウラジオストクから約1万km離れたモスクワでも活発に日本から輸入されたとみられる中古車が売買されていることに、ただただ驚くばかりであった。
■日本車の人気はロシア全土で共通!?
ロシアでは、モスクワ、サンクトペテルブルク、それ以外の地域と3つにエリアを分けて物事も見る必要があると、現地に駐在している日本人から聞いたことがある。
モスクワで見かけたことが、ロシア全体のトレンドを必ずしも映し出しているということではないということであるが、日本からの右ハンドル中古車の人気は全ロシアレベルで高いようだ。
筆者は過去4回モスクワを訪れているが、仕事の合間に大通りの交差点など、いくつか定点観測ポイントを決めて、走っているクルマをウォッチングすることを楽しみにしている。
最初に訪れた時には、ソビエト時代にプロダクトされた、ラーダやヴォルガといった古参のロシアブランドモデルを見るのが目的であったのだが、あまりに右ハンドル日本車を多く見かけるので、そちらのウォッチングがメインになっていった。
ロシア人は日本車のミニバンが好きなようで、ノア&ヴォクシー、ステップワゴン、ウィッシュ、ストリームなどを多く見かけることができた。
また“マークII 3兄弟”も大人気で、7代目のマークII、チェイサー、クレスタがズタボロの状態で走っている姿を意外なほど見かける。
モスクワ市内で地元モスクワっ子のクルマ好きと話をした時、すでに日本ではマークXとなっていたのだが、「マークX? それはなんだ、マークIIじゃないのか?」と少々頭が混乱していた様子であった。
商用車の人気も高く、プロボックスやボンゴバン、さらにはクレーン付きの中型トラックなども活躍していた。
2008年ごろでは、モスクワの感度のよい若い女性はパイクカーに乗るのが流行っていたようで、Will Viあたりもよく見かけた。ヴィッツ(日本以外の仕様のヤリスではない)あたりのコンパクトモデルも好んで乗られていた。
■年式の新しい中古車が最近のトレンドか
ここ最近のトレンドとしては、いままでは年式が古めのモデルが目立っていたのだが、カローラフィールダーやアクアといった、現行モデルや年式の新しい右ハンドル中古車をモスクワ市内でも見かけるようになったことである。
あと、行政からなんのインセンティブもないのに、ハイブリッド車が好きなようで、中古のプリウスを好んで乗っているようにも見えた。
しかし、街なかを走る中古車は何も日本からのものだけではない。モスクワではその地理的状況もあり、西ヨーロッパ諸国からも大量に西ヨーロッパブランドの中古車が入ってきている。そして、アメリカ、さらに中国からも中国民族系モデルの中古車が大量に入ってきている。
つまり、世界各地から中古車が輸入され販売されているのである。その様子は新車販売を圧迫しているともいわれており、ロシア政府もたびたび規制をかけようとするのだが、いずれも腰砕け状態となっているのが実状。
事情通は「マフィアが深く絡んでいるようなので、政府も半ばタッチできないという話もまことしやかに聞きます」とのこと。
そのため、例えば初代ハリアーかなと思うと、おそらく北米あたりから入ってきて初代RXであったり、プリウスでも西ヨーロッパ、北米、そして日本からの右ハンドルといったように、世界各地仕様のプリウスをモスクワの街なかで見かけることもできる。
「ソビエト時代からのロシア車は命の危険もあるので冬眠(冬は使わない)させる」という話を聞いた。これはロシア車は故障が多いので、極寒の冬に故障したら凍死する可能性があるかららしい。
そのようななかで、日本からの日本車の中古車人気が高いようなのだが、“ロシア車以上韓国車未満”ということで、中国から民族系メーカーの新車がロシアに入ってきたとのこと。
いまではロシアで販売を始めたころよりは、はるかに性能も良くなった中国車はかなりのブランドがロシア国内で新車を正規販売しているが、中古車も引き続きガンガン入ってきている。
前出事情通は「極寒のロシアで中古車として使ってもらうことで、中国車の耐久性能向上が進んだのかもしれない」と冗談半分で語ってくれた。
■新車はレクサスが大ブレイク中!
それでは、ロシアでの日本車の新車販売状況はどうかというと、モスクワ市内に限った話とされているが、レクサスの大ブレイク状態となっている。世界で最もレクサス車が愛されている大都市と言ってもいいぐらい市内を多くのレクサス車が走っている。
とはいっても、走っているのはNXとLXがほとんど。1週間ほどの滞在で見かけたLXの数は、東京で見かける3年分以上といってもいい過ぎでないぐらい数多く走っている。
その背景には、世界的に不況などが起きると“金”を購入して資産を守ろうとする動きがあるが、ロシアではそのひとつとして、高級車を購入するという動きが顕在化するのである。
その動きがモスクワでレクサス車が溢れている原因のひとつであるとも考えられている。空港からホテルまでチャーターしたタクシーの、旧ソビエトから独立した国から出稼ぎにきていたドライバーも、「しこたま金もうけたら、レクサスを買うぜ」と、筆者が日本人とわかると話しかけてきた。
■ロシアの日本車好きと話がはずむことも
ロシアは厳しい社会主義政権だったソビエト時代から、自動車の個人所有が認められていたとされ、それを裏付けるように意外なほどソビエト時代も自動車ブランドが多かったクルマ好きな国といっていいだろう。
“蚤の市”へ行くと、ソビエト時代に作られた“ジル(当時のVIP専用車)”などの、ヴィンテージもののミニカーが多数売られており、筆者は毎回“大人買い”している。
その蚤の市では、古い右ハンドルのクラウンが駐車していたので見ていると、蚤の市に出店しているオーナーがやってきて、筆者が日本人とわかると、「日本車が大好きだ(VIPセダンが大好きとのこと)」として、筆者と記念撮影してくれと頼んできた。
話が盛り上がったあと、売り物の絵皿などの“プーチングッズ”をたくさんくれた。
観光でもビザが必要なこともあり、まだまだ“未知の国”に近いロシアであるが、クルマ好きには、その混沌とした状況もあり、かなり興味深いことになっているのは確か。そして、意外なほど日本車がリスペクトされているのである。