■マンションがEVの未来を左右する?
日本自動車工業会は、環境適合車への減税や免税を引き続き継続すべきとし、マスメディアにおいてはバッテリー開発への支援や、充電器などの社会基盤整備の拡充などを求める記事を展開する。もちろんそれらも必要な策だろうが、いずれも現場の課題を的確にとらえているとはいいがたい。
現実的なEVの普及において、まず為すべきは、マンションなど集合住宅への普通充電設置をしやすくする環境づくりだ。
EV販売の9割近くは戸建て住宅に住む顧客である。これが、集合住宅に住み、貸し駐車場を利用する人まで拡大できれば、少なくとも2倍の販売実績を生むことは容易だろう。ことに都市部では富裕層もマンション住まいが多く、EV購入希望の幅は広がるはずだ。
新築マンションへは、充電設備を採り入れるデベロッパーもあり、徐々には進みつつある。だが、圧倒的多数の既存の集合住宅の駐車場に200Vの普通充電を容易に設置できなければ、いつまでたってもEVの普及はおぼつかない。
なぜ、集合住宅の駐車場に充電設備を設置できないのか?
理由の一つは、駐車場は住民の共用施設であり、そこへの充電器の設置という改造は、建物の修繕などと同様に管理組合の合意を得なければできない。
しかも、管理組合を運営する幹事の全員の賛成を必要とする例が多いため、ほとんどの場合、否決される結果となっている。否決の理由は、必ずしも合理的な判断ではないとの話も耳にする。なかには、「自分に関係ない」といった主観的、あるいは感情的な理由で、住民にEVを買いたい人があっても実現できない状況にある。
さらに課題はある。戸建て住宅であれば、車庫に200Vのコンセントを設置すれば済み、10万円ほどの費用でしかない。
しかし、共用施設となる集合住宅の駐車場の場合、そのコンセントを誰が使ったのか? その電気代は誰が支払うのか? といった点で、個人を認証したり特定したり、しなければならず、個別認証や課金を行える充電器を設置することになり、その設備代が上乗せになる。急速充電器ほど高額ではないにしても、戸建て住宅での10万円程度では済まないのだ。
たとえその金額をEV購入希望の本人が支払うと言っても、管理組合によって否定されれば先へ進めない。それが現実だ。
■取り組むべき「課題」は現場にあり
また、電気料金の契約が、一軒につき一契約を基本とするため、自宅の部屋と別の駐車場にコンセントを設置した場合、その電気料金を毎月の電気代に上乗せできるかどうかが難しい。
つまり、自宅の配電盤と別経路で電気配線を行うと、そこに別契約の必要が生じるためだ。デジタルの時代に、電気設備においてはなんと旧態然とした仕組みが残っているのだろう。
EVの充電に限ってもいい、スマートフォンなどで簡単に電気料金決済ができるなどの仕組みが考えられていいのではないか。
また、EV用のコンセントであれば、管理組合の合意を得なくても集合住宅の駐車場にコンセントを設置できるような特例措置などを政府や行政が推進すべきである。減税や補助金の前に、取り組むべき課題が現場にある。まさに、現場・現物・現実を見なければ、脱炭素社会など実現できないのである。
脱炭素とは、クルマに限らずそれほど容易ではないのだ。なぜなら、価値観や生活実感の転換を求めるからである。18世紀の石炭の利用から、20世紀に繁栄した石油の時代の経験を通じて実現できる社会ではないのである。
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