かつて“2Lターボ”は、日本のお家芸というほど多彩で文字どおり百花繚乱といった華々しさがあった。このカテゴリーで輸入車が増えた今でも、国産では13車種、5機種の2Lターボエンジンがある。
その現行国産ラインアップのなかで、最も優れているエンジンはどれ!?
文:斎藤聡/写真:編集部、HONDA、STI
ベストカー2018年1月10日号
13車種を擁す国産2Lターボ車の勢力図
国産2Lターボ13車種の内訳はトヨタとレクサスが、クラウン、レクサスRC、NXなど7車種(8AR‐FTS型)。
スバルがWRX STIにEJ20型、ほか3車種に直噴のFA20型。ホンダがシビックタイプRにK20C型を搭載。日産はスカイラインに247A型(ダイムラー製)となっている。
このなかで自動車ジャーナリスト、斎藤聡氏がナンバーワンに挙げるのがスバルのWRX STI。2位はシビックタイプRで、次点にトヨタ製2Lターボエンジンを搭載するレクサスRCを挙げている。この評価の理由は?
エンジンだけの評価ならシビックタイプR
エンジンだけで順位を付けるとするなら、やはりシビックタイプRのK20Cだろう。
世界レベルで見ると2Lターボでこのエンジンよりパワーを出しているものはあるけれど、これほど鋭いレスポンスを持ったエンジンはない。
ホンダの面目躍如といったところだが、それはエンジンの回転部、往復運動部を徹底的に軽量化し、例えば軽量アルミ製ピストンを採用してカウンターウエイトを軽減するなど、こだわりぬいた設計がなされているからだ。
そんなことを頭の片隅に入れて力いっぱい加速させてみると、ド迫力なのに緻密なエンジンの回転フィールが伝わってくるような気がする。
パワーとトルクの出し方も、低速と高速2種類のカムシャフトを持ったVTECの特長を引き出しており、2500回転あたりから分厚いトルクがみっちり詰まった加速感が味わえる。
現代的なエッジの効いたエクステリアデザインと電子デバイスを駆使した操縦性と、鋭いレスポンスのエンジンキャラクターがよく合っている。
WRX STIをシビックタイプRより上位にした理由
シビックタイプRは、超絶に刺激的なエンジンと走りの性能を持ったスポーツカーだ。そして、その対極にあるのがWRX STIでありEJ20エンジンだろうと思う。
いまだに直噴ではなく、ポート噴射エンジン(※ガソリンと空気を混ぜて混合気を作る機構)を採用するが、20数年に及ぶ改良とチューニングの結果、ハイパワーを実現しながら現代の排ガス要件をクリア。
最新の超低フリクションエンジンとはやや趣が異なりドラマチックな吹き上がり方をする、捨てがたい魅力のあるエンジンだ。このエンジンの存在がWRX STI優位のひとつの理由だ。
もうひとつは、4WDでパワー/トルクを余すことなく引き出せること。シビックの速さは文句なしだが、アジャイルコントロールによる操縦性アシストや、VSC(横滑り防止装置)によるトラクションコントロール介入など、前輪駆動車がゆえのトラクション不足を意識させられる瞬間に、すべてをドライバーが制御しきれないもどかしさを感じてしまうからだ。
WRX STIの魅力は、安全機能の電子制御デバイスを介入させることなく、持てるパワーを余すことなく路面に伝えることができること。
フル加速時やコーナー立ち上がりでホイールスピンすることがないし、場合によっては4輪がホイールスピンしてドリフト気味になることもあるが、それさえも充分にコントロールの範疇にある。
もちろん誰もができるわけではないが、スキルアップで充分到達可能なコントロール領域だ。絶対的な速さはシビックと比べ甲乙つけがたいが、コントロールする幅の広さと奥ゆきは、WRX STIのほうに一日の長があると思う。
次点のトヨタ製2Lターボの長所と短所
いいところは、直噴ターボエンジンを開発し広く展開しているところ。
耐ノッキング性に優れる直噴エンジンだけに、圧縮比を高めにとってエンジンのピックアップをよくするとともに、ターボのレスポンスも高めている。その結果、アクセルを踏み込んだ瞬間からターボの力強さを感じることができる。
パワーよりもトルクの立ち上がりが早く、またトルクの厚みがあるので力強いエンジンという印象がある。
半面、パワーはいまひとつ。やはり2Lターボでスポーティな魅力や刺激を作り出すなら280ps以上は欲しいところ。8AR-FTSは、汎用性という点で優れていると思うが、スポーツ用では物足りない、そこが×。
スカイラインのエンジンはどうか?
周知のように、スカイラインに搭載されているエンジンはダイムラー製。このエンジンの特徴はストイキ燃焼、つまり、理論空燃比で燃焼させていること。
メルセデスベンツに搭載される同型のエンジンは、リーンバーン燃焼させている。その代わり、排ガスにNOxが多く排出されることからNOxの吸着触媒が必要。
スカイラインの274Aは吸着触媒が必要なく、排気系の構造がシンプルでコストが安く済むのがメリット。
エンジンのキャラクターはダウンサイジングターボ。トルクがまんべんなくあり、扱いやすい。半面、パワーの刺激が物足りない。スカイラインに積むなら、もうちょっとスポーティであってほしい。
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2Lの排気量があると、刺激的なスポーツエンジンからトルク重視の穏やかキャラのエンジンまで多彩なチューニングが可能。さらにいろんな個性を持ったエンジンが増えることを期待したい。