自動車産業の強みは、弱点にも成り得る?
トヨタが発明した、定時に工場に部品を納入してもらい、それを想定したペースで生産を続けるトヨタ式生産方式(ジャストインタイム、かんばん方式とも呼ばれる)は、部品の在庫スペースも最小限になり、在庫管理や倉庫から運搬する手間、さらには財務面でも部品の在庫分を圧縮できる。非常に効率の良い生産方式として、世界中の工場が手本とするようになった。
しかし、部品を納入するサプライヤーが運んでくるトラックドライバーはかなり大変だ。部品の納入を数量と到着時刻までキッチリと守らなければならない。
そう、こうした効率的な生産方法は、確実な部品供給が約束されているから維持できる。そういった意味ではサプライヤーの責任は重大だが今回、部品不足に陥ったのはこのサプライヤーが原因なのではなく、半導体メーカーでもない。それでは、何が原因なのか。
世界中の半導体需要高まりで、不足することは予測済みだった?
こうした半導体不足になった原因は半導体業界の構造と、クルマに使われる半導体の特殊さにあるのだ。
まずコロナ禍になる前から、今年は半導体が不足することが予測されていた。なにしろ、半導体を使うのは工業製品でもかなりの範囲におよぶ。PCなどの電子機器はもちろん、家電製品やおもちゃなど、電気で動作するものはほとんど半導体が使われている。
IoT(インターネットで連携する技術)によって、あらゆるモノがネットとつながるようになってきたが、それらはすべて半導体によって実現しているのだ。
そして今年からソニーのPS5やマイクロソフトのXboxといった家庭用ゲーム機の生産が本格化する、さらに5Gの普及に向けた通信機器の増産によって、半導体の需要は高まり、供給が不足すると分析されていたのだ。
さらにコロナ禍によって巣ごもり需要やテレワークの急増により、家庭用ゲーム機やPC、サーバー機器などの需要が大きく高まった。
ちょうど欧州でロックダウンが敷かれ、日本でも緊急事態宣言が発令された頃、クルマの生産は大きく落ち込んだ。その時にサプライヤーには生産を調整するよう指示が出て、そのサプライヤーに納入する半導体メーカーにも当然、出荷を調整する旨の指示が伝わったハズだ。
そこで半導体メーカーは、クルマ向けの半導体を作っていた生産ラインを、ゲーム機やPC、サーバー用などの半導体製造に切り替えたのだ。こうして減産することなく、別の製品に切り替えたのは、業績を考えれば当然のことだろう。
クルマ用半導体の特殊な事情も原因の一つ
クルマに使われる半導体は自動運転用などの特殊な用途を除けば、それほど高性能で高価値のモノは少ない。高性能な最先端プロセスの半導体ではなく、どちらかといえば使い古された信頼性の高い部品を使うのだ。
なぜなら地域によっては、クルマが走行不能になってしまうと生死に関わる問題となることもあるため、とにかく信頼性、耐久性が重視されるからだ。そうなると部品としての価格は安く、しかも大量に時間通りに納めなくてはいけないということになる。
つまりクルマ用の半導体を納める取引先は、半導体メーカーにとっては上客とは言えない存在なのである。それでも通常なら安定した供給先なので重要な取引先なのだが、コロナ禍で発注が減ってしまうと、そうしたメリットは薄くなる。
半導体メーカーにとってはゲーム機やPC向けの高性能な半導体を生産して販売した方が儲かるのだ。
しかもコロナ禍で投資マネーがダブついたため、仮想通貨にも多額の投資マネーが再び注ぎ込まれた結果、ビットコインなどの価値が急上昇し、マイニング(仮想通貨の取り引きを記録する作業で、報酬がもらえる)用のPCの需要も再び過熱して、高価なグラフィックボードを搭載したPCが買い漁られる事態も起きている。
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