昔は、ターボチャージャー付エンジンのクルマで高負荷運転をした後には、エンジンを停止する前に数分間、アイドル回転をさせておく「アフターアイドリング」が必要でした。
このアフターアイドリング、現代のターボ車では不要といわれますが、ダウンサイジングターボが主流となった現代でも、熱くなったターボチャージャー周りの冷却は必要なはず。本当に現代のターボ車はアフターアイドリングが必要ないのでしょうか。
文:吉川賢一 写真:NISSAN、Daimler、HONDA、SUBARU、SUZUKI
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■アフターアイドリングは「ターボ車乗りの心得」だった
アフターアイドリングの目的は、ターボユニットのコーキング対策でした。コーキング(炭化)とは、高負荷がかかり高温になったタービン軸に、エンジンオイルが長時間接していることで焦げて個体化し、次回始動時にタービンが周りにくくなってしまう現象です。
ターボ車で高負荷がかかる走行をした場合には、数分間のアイドリングをして、ターボを冷却してからエンジンストップすることが、当時、自動車メーカーからも推奨されていました。
アフターアイドリングは、当時、ターボ車乗りの心得として定着していました。
しかし、「目的地に到着したあとアフターアイドリングをしてじっと待っているのが億劫」という方向けに、イグニッションをOFFにしてキーを抜いてしまった後も、アイドリング状態が設定時間続くようにする、ターボタイマーを装着する方も多くいました。
ちなみに、ターボタイマーは今でも存在しており、チューニングパーツメーカーの「HKS」からは、同社製品の歴代10世代目にあたる「ターボタイマー10」が販売されています。
非常にコンパクトな設計で、タイマーは1、3、5、10、30分に設定が可能。対応車種は、キーをひねってエンジンをかけるタイプに限られており、同社のHPの対応表で確認ができます。80年代の旧車や、90年代のネオクラシックカーに乗っている方にとっては、現存してくれるのはとてもありがたいことでしょう。
■現代のターボ車には「アフターアイドリング」は不要なのか?
現代のクルマと昔のクルマで、もっとも大きく違うのが「センサー」です。よく、「自動車技術の進化はセンサーの進化」といわれますが、昔のターボ車の弱点は、ターボ本体がどれほど発熱しているのか判断できていなかったこと。
現代ならば、クルマ側がやってくれているターボの温度管理を、昔はドライバー自らが、勘と経験を頼りに作法を決め、やっていたのが「アフターアイドリング」という作業です。
しかし2000年以降、排ガス規制がより厳しくなったことで、エンジンの燃焼温度を緻密にコントロールするために、精度の高い温度センサーの開発が進みます。
これにより、ターボの高温&振動に耐えられる温度センサーが開発され、ターボ(正確にはその前後の排気温度)の温度管理が正確にできるようになってきました。
また、ハイブリッドカーの登場により、エンジンオフ時にも稼働する、電動オイルポンプなども誕生しました(エンジンとモーターを併用するハイブリッドカーの場合、エンジンオフになると、従来使用していたメカオイルポンプが機能せず、エンジンオイルの循環ができず冷却できなかった)。
ターボの温度が推定でき、かつアイドリングオフ時でもエンジンオイルを回すことができる電動冷却システムにより、クルマ側が常にターボの発熱状態を把握し、適切に冷却をすることが可能になりました。
そのため、現代のクルマでは、ドライバー自身がアフターアイドリングの操作をする必要はないのです(ただし、サーキットを全開で走った直後のような特殊な場合は除きます)。
ちなみに、頻繁にエンジンを切ってしまうアイドリングストップ機能の場合、電動オイルポンプや電動ウォーターポンプが、エンジン停止時にも冷却水やオイルを供給しています。
また、高負荷運転をした直後など、アイドリングストップよりもエンジン冷却を優先した方が良いとECUが判断した場合には、アイドリングストップせずに、アイドリングを優先するようなエンジン制御も行われますので、ユーザーが心配する必要は、原則ありません。
「そうはいっても、高速走行の後は、ターボの熱が気になる」という方は、エンジンを切る前に2~3分、ゆっくりと走らせる時間をとったり、排ガスや騒音問題にならない範囲で1分ほど行えばよいかな、と思います。
■ダウンサイジングでさらに過酷となった
ちなみに、温度管理に特に厳しいのが、昨今のディーゼルエンジンのターボチャージャー用の温度センサーです。
センサー技術では世界有数のブランドである日本特殊陶業(NTK)によると、エンジンのダウンサイジング化がトレンドとなる中、小さなエンジンでも同等のパワーを得るためには、どうしてもエンジン内は高圧・高温にする必要があるそう。
燃焼時は一瞬で高温になり、停止時は即座に温度が下がる、という冷熱の変化が激しい「熱衝撃」に加え、エンジンの振動にも対応し、かつ、走行距離30万kmでの耐久性保証も必要だったそうです。
その結果として、同社が得意とするペロブスカイト型セラミック製のサーミスタ素子を使用した、低温から900度までの幅広い温度範囲が測定可能な排ガス温度センサーが開発されました。耐熱性が高く、また、形状の設計自由度も高いので、排気管や触媒ケースに取り付け可能だそうです。
こうした技術が登場したおかげで、ターボの温度管理が可能となったのです。