半導体不足で減産 なぜ起きる? 自動車産業の構造的な弱点とは?

 新型コロナ禍の影響から脱しつつあった自動車業界で、半導体不足を理由にした生産ラインの停止が相次いでいる。

 半導体不足を受け、トヨタがアメリカで1車種の減産を決め、ホンダはフィットなどの国内で月4000台程度の減産を決定。日産もノートの生産を1月に数千台減らし、スバルも2月5日、2021年3月期中に4万8000台の減産を予定していることを明らかにした。

 このニュースを聞いて、なぜクルマの半導体が今になって不足しているのかと思った人も多いのではないだろうか? そもそもクルマの半導体でどこに使われているのか?

 そして今、自動車産業が抱えている構造的な弱点とは何か? モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。

文/高根英幸
写真/高根英幸 Adobe Stock(トビラ写真/Adobe Stock@Valeriv)

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半導体って何だ? クルマのどの部分でどう使われている?

半導体不足でクルマが減産 なぜ起きる? 自動車産業の構造的な弱点とは?
半導体のなかでも最も複雑な構造をもつSoC(システムオンチップ)。CPU(計算する機能)やメモリ(記憶する機能)といった従来の半導体単体ではなく、このチップ自体が小さな基盤としてCPU、メモリ、入出力装置などが組み込まれている(写真/NVIDIA)

 新型コロナウイルスは再び日本全国でも猛威を振るっているが、それとは別の問題が自動車メーカーを苦しめている。それは半導体不足である。

 2020年前半のコロナ第1波や生産工場の従業員が感染したことによる生産停止などから立ち直り、パーソナルな移動空間としてクルマの価値が見直された2020年後半は、クルマの需要も高まったことで生産ペースも加速して業績は急回復していたのに、再びクルマの生産ペースを抑えなければならない事態に追い込まれている。

 その原因は、クルマを構成する部品が足りなくなってしまった、ということ。具体的には半導体を搭載した部品が足りなくなってしまったのである。

 そもそも半導体とは何なのか。今回の問題はここから理解する必要がある。

 半導体とは、条件によって電気を通す状態(導体)と、通さない状態(不導体)に変化するモノで、信号によって切り替えることができる。この信号による切り替えを行なうのがコンピュータのプログラムだ。

 昔はアナログ制御の半導体装置も存在したが、半導体の製造技術が向上してくると、回路を小型化できるデジタル制御が性能面でもコスト面でも圧倒的に有利になったため、回路のデジタル化はどんどん進んでいったのだ。

 デジタル信号はすべてを0と1に置き換えているから、信号の劣化がないだけでなく、どんなに電流を小さくしても伝えることができる。

 アナログの場合、電流の性質(電圧、電流、周波数など)によって信号としているため、一定以上に小さい電流にすることは難しい。小さくするとノイズの割合が大きくなって、信号の正確性にも問題が起きてしまう。

 そうやってデジタル回路によって半導体は微細化が進み、その製造技術も向上したことによって、スマホは20世紀のPCとは比べ物にならないほど高性能になり、デジタルカメラも高画質でコンパクトなサイズを可能にした。

 クルマだってエンジンの燃焼状態を制御しているECUはどんどん高性能になって、内部のCPUは燃料噴射のタイミングや回数をきめ細かく制御したり、点火時期を遅らせたり、バルブ開閉のタイミングを調整するのはもちろんのこと、変速機の制御も同じCPUが行なうワンチップ型も増えている。

 しかしここまで半導体が小型高性能化されると、別の問題が生じてくる。極めて微細な回路をシリコンウエハーに焼き込むためには、僅かな塵も存在することが許されない。そのため生産は密閉された空間にフィルターを通して換気されるクリーンルームのなかで行なわれる。

 クルマは半導体をたくさん採用することで、まるでインターネットのようにボディの内部を信号が行き交う通信をすることで、多機能になり、ワイヤーハーネスも最小限にまで削減することが可能になった(それでも多機能化とボディの大型化で、車重は増加傾向にあるが)。

 この通信端末として機能しているのがマイコン(マイクロコンピュータ)であり、様々な部品に組み込まれていて、クルマ1台に30個から80個ものマイコンが使われているのだ。

自動車産業の強みは、弱点にも成り得る?

アナログ表示のメーターパネルの開発風景。メーターの裏側にはたくさんの半導体が組み込まれている。メーターだけでなく、パワーウインドウのモーターなど個々の装備にもマイコンなどの半導体が組み込まれ、信号によって動作を制御している(Monet@adobe Stock)

 トヨタが発明した、定時に工場に部品を納入してもらい、それを想定したペースで生産を続けるトヨタ式生産方式(ジャストインタイム、かんばん方式とも呼ばれる)は、部品の在庫スペースも最小限になり、在庫管理や倉庫から運搬する手間、さらには財務面でも部品の在庫分を圧縮できる。非常に効率の良い生産方式として、世界中の工場が手本とするようになった。

 しかし、部品を納入するサプライヤーが運んでくるトラックドライバーはかなり大変だ。部品の納入を数量と到着時刻までキッチリと守らなければならない。

 そう、こうした効率的な生産方法は、確実な部品供給が約束されているから維持できる。そういった意味ではサプライヤーの責任は重大だが今回、部品不足に陥ったのはこのサプライヤーが原因なのではなく、半導体メーカーでもない。それでは、何が原因なのか。

世界中の半導体需要高まりで、不足することは予測済みだった?

半導体の本体と言えるチップを作り上げた状態。この四角い模様1つ1つが半導体で、丸いシリコンウエハー上にいくつもの半導体を紫外線レーザーで焼き付けて、カットしてチップにするのだ(I’m Thongchai@adobe Stock)

 こうした半導体不足になった原因は半導体業界の構造と、クルマに使われる半導体の特殊さにあるのだ。

 まずコロナ禍になる前から、今年は半導体が不足することが予測されていた。なにしろ、半導体を使うのは工業製品でもかなりの範囲におよぶ。PCなどの電子機器はもちろん、家電製品やおもちゃなど、電気で動作するものはほとんど半導体が使われている。

 IoT(インターネットで連携する技術)によって、あらゆるモノがネットとつながるようになってきたが、それらはすべて半導体によって実現しているのだ。

 そして今年からソニーのPS5やマイクロソフトのXboxといった家庭用ゲーム機の生産が本格化する、さらに5Gの普及に向けた通信機器の増産によって、半導体の需要は高まり、供給が不足すると分析されていたのだ。

 さらにコロナ禍によって巣ごもり需要やテレワークの急増により、家庭用ゲーム機やPC、サーバー機器などの需要が大きく高まった。

 ちょうど欧州でロックダウンが敷かれ、日本でも緊急事態宣言が発令された頃、クルマの生産は大きく落ち込んだ。その時にサプライヤーには生産を調整するよう指示が出て、そのサプライヤーに納入する半導体メーカーにも当然、出荷を調整する旨の指示が伝わったハズだ。

 そこで半導体メーカーは、クルマ向けの半導体を作っていた生産ラインを、ゲーム機やPC、サーバー用などの半導体製造に切り替えたのだ。こうして減産することなく、別の製品に切り替えたのは、業績を考えれば当然のことだろう。

クルマ用半導体の特殊な事情も原因の一つ

EVのパワーユニットの一番上のPCU(パワーコントロールユニット)はECUとインバーターなどが組み込まれたもので電流の増減や回生充電を制御する。オレンジのハーネスは大電流を流す配線類でつながれている部品には無数の半導体が使われている(xiaoliangge@adobe Stock)

 クルマに使われる半導体は自動運転用などの特殊な用途を除けば、それほど高性能で高価値のモノは少ない。高性能な最先端プロセスの半導体ではなく、どちらかといえば使い古された信頼性の高い部品を使うのだ。

 なぜなら地域によっては、クルマが走行不能になってしまうと生死に関わる問題となることもあるため、とにかく信頼性、耐久性が重視されるからだ。そうなると部品としての価格は安く、しかも大量に時間通りに納めなくてはいけないということになる。

 つまりクルマ用の半導体を納める取引先は、半導体メーカーにとっては上客とは言えない存在なのである。それでも通常なら安定した供給先なので重要な取引先なのだが、コロナ禍で発注が減ってしまうと、そうしたメリットは薄くなる。

 半導体メーカーにとってはゲーム機やPC向けの高性能な半導体を生産して販売した方が儲かるのだ。

 しかもコロナ禍で投資マネーがダブついたため、仮想通貨にも多額の投資マネーが再び注ぎ込まれた結果、ビットコインなどの価値が急上昇し、マイニング(仮想通貨の取り引きを記録する作業で、報酬がもらえる)用のPCの需要も再び過熱して、高価なグラフィックボードを搭載したPCが買い漁られる事態も起きている。

いつ半導体不足が解消するのか? 自動車産業の構造的な問題点は?

半導体はシリコンの板の上に何度も膜を生成して必要な回路を焼き込むことで作り上げられる。一連の製造装置を並べて自動化が図られているだけでなく、工場全体もフィルターを介して換気するクリーンルームとなっている(industrieblick@adobe Stock)

 実は半導体メーカーも実は自社では生産しているのは一部の製品だけで、ほとんどの製造はファウンドリーと呼ばれる生産だけを専門に行なう企業に外注している。これが事態をより複雑にしている。

 本来、ファウンドリーは下請けなので、半導体メーカーの言いなりになりそうなものだが、前述の通り半導体製造はクリーンルームに精密機器を設置して、いくつもの工程を経て生産される。

 特に先端プロセスと呼ばれる、超微細な半導体製造はクリーンルームのレベルも段違いで、工場の建築コストも膨大な金額になる。そのためすでに先端プロセス向けの生産設備を持っているファウンドリーが有利な立場になり、どんどん規模を拡大していっているのだ。

 2020年の半導体製造自体は順調に伸びており、ファウンドリーも増産体制を敷いているが生産が追い付かないほど。なのでクルマ向け半導体は、一度減産を決めてしまうとすぐには元のペースに戻せないのである。

 自動車メーカーやサプライヤー、半導体メーカーが半導体を増産したくても、ファウンドリーが首を縦に振らなければ実現することはできない。生産量や価格の決定権は本来、購入先がもっているものだが、現在の半導体不足には、そんな常識が覆されるような捩れ構造となっているのだ。

 ファウンドリーの最大手である台湾のTSMCは、クルマ用半導体の増産体制を敷くことを明らかにしているが、設備の拡張や生産開始から出荷までには3、4ヵ月はかかると見られている。

 つまり、すぐに半導体不足は解消できないのだ。半導体不足によるクルマの減産は、半年くらいは尾を引きそうで、その損失は6兆円にも達するのでは、という見方も出ている。

 日本は半導体製造から事実上手を引き、ルネサスなどの日本の半導体メーカーもファウンドリーを頼りにしている部分が大きい。

 海外で組み立てているクルマも多いため、日本の自動車メーカーでも国内で調達することだけにこだわる必要はないが、自動車メーカー連合で出資して半導体の生産拠点を作るなど、ある程度の供給を賄えるようにするなど、ファウンドリーに対して影響力を持つことも大事なのではないだろうか。

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