人馬一体を追求し続ける! 「走り」に賭けたマツダの挑戦は成功したのか!?

■初代ファミリアの「足」、初代ロードスターの「人馬一体」と走りにこだわったマツダ

 1970年代後半はクルマの運動性を向上させるためには、前輪だけではなく後輪のステアを積極的に使う必要がある、そんなブームが起きた。その原点として有名だったのは、ポルシェ『928』の「ヴァイザッハアクスル」で、これが1978年のこと。

排気量4.5LのV8エンジンをフロントに搭載し、ギヤボックスはリア側にトランスアクスルで搭載する事で重量配分にも優れていた
排気量4.5LのV8エンジンをフロントに搭載し、ギヤボックスはリア側にトランスアクスルで搭載する事で重量配分にも優れていた

 それに遅れることわずか2年で、マツダは『初代FFファミリア(BD型)』のリアサスに台形リンク式ストラットをつかった「SSサスペンション」を投入。ポルシェ928と同様に、コーナリング時の横Gやブレーキング時の減速Gで後輪をわずかにトーインさせることで、軽快で安定したハンドリングを実現していた。

第一回日本カーオブザイヤー受賞車でもある『ファミリア』 ポルシェが当時フラッグシップとして開発したクルマに搭載したのと同等な機能を、量販モデルに搭載したのにはアッパレ 
第一回日本カーオブザイヤー受賞車でもある『ファミリア』 ポルシェが当時フラッグシップとして開発したクルマに搭載したのと同等な機能を、量販モデルに搭載したのにはアッパレ 

 バブル期に向かう1980年代後半は、マツダのライバルたちも操安性やハンドリングの重要性を認識し、例えば有名な日産の901活動のような成果も花開くのだが、その火付け役となったのは初代RX-7から初代FFファミリアの大ヒットに至るマツダの快進撃だったとえるだろう。

 そんな中からやがて『初代ロードスター(NA)』の企画が立ち上がってくるわけだが、そこでマツダが提示した新しいハンドリングのコンセプトが“人馬一体”だった。

 初代ロードスターがデビューした1989年はバブルの絶頂期で、日産『R32GT-R』やホンダ『NSX』など、国産車の常識を破るパワフルなスポーツカーが続々登場していた。そういう時代背景があるから、“人馬一体”という言葉には「乗せられるんじゃなく、乗りこなすクルマ」という意味があった。

FR / 2人乗りのオープンカーというコアを守りながら徹底的にコストダウンし、結果的にはギネス記録に乗るほどの名車となった
FR / 2人乗りのオープンカーというコアを守りながら徹底的にコストダウンし、結果的にはギネス記録に乗るほどの名車となった

 クルマがどんどん大きく豪華でパワフルになっていった時代、たった120psのちっぽけなスポーツカーは、しょせん1960年代へのノスタルジーといわれても仕方がない。「スポーツカーの楽しさはパフォーマンスだけにあらず。クルマをコントロールして乗りこなすことこそが走りの醍醐味だ!」それが初代ロードスターに込めたマツダのメッセージだった。

 このロードスターのヒットは決定的だった。バブル崩壊とともにパフォーマンス志向のスポーツカーはどんどん衰退していったが、ロードスターは世代を重ねるごとにスポーツカーの定番としての地位を確立。その後4世代を経て、現在でもマツダの“人馬一体”を象徴するアイコンであり続けている。

 最近のスポーツカーは500ps程度は当たり前で、下手をすると1000psなんていう化け物すら存在するが、コンピュータによるスタビリティ制御なしにはワインディングを攻めることもままならない。

 ロードスターの“人馬一体”は、まさにそのアンチテーゼ。いくらクルマが暴れても自分の手の内にあるという自信をドライバーに抱かせてくれる優しさがあり、しかも本当に危険な領域に踏み込まないための安全マージンがちゃんと用意されている。いまだにロードスターがみずみずしい魅力を保っているのは、それを操る人間を中心に造られているからだ。

■玄人受けより誰でも使える技術を発想するマツダ 難しさも抱える“人馬一体”

 この“人馬一体”という考え方は、いまやスポーツカーだけではなくマツダのすべてのクルマに共通した走りの味わいへと進化し、ごく普通のファミリーカーにも浸透している。最近のマツダの操安技術でそれを象徴するのが「Gベクタリングコントロール」だ。

 ドライビングセンスのある人には理解できると思うが、クルマはステアリングだけではなくアクセルの微妙な増減にも反応する。これは、サーキットの限界走行だけではなく、一般道のクルージング速度でも同様。少しラインがはらんだなと感じたら、アクセルを閉じ気味にしてクルマのノーズを内側に引き戻す。こういうデリケートな制御を、スキルのあるドライバーはなかば無意識のうちに行っている。

 Gベクタリングコントロールが目指すのはこれ。ステアリング操作と上手にリンクさせてエンジントルクを増減させれば、よりドライバーの意思に忠実にクルマを走らせることができるという発想だ。

基本的にコーナーの入り口などでは、外周側前輪へ荷重を乗せるためにアクセルを抜く。Gベクタリングコントロールはこの操作を、ドライバー操作がなくても自動的に行うという。「Plus」ではさらにブレーキによる姿勢安定化制御も追加された
基本的にコーナーの入り口などでは、外周側前輪へ荷重を乗せるためにアクセルを抜く。Gベクタリングコントロールはこの操作を、ドライバー操作がなくても自動的に行うという。「Plus」ではさらにブレーキによる姿勢安定化制御も追加された

 この新技術が面白いのは、ハードウェア的には何ひとつ新しい部品が追加されていないこと。ステアリングの操舵角速度をベースに、エンジンのECUにトルク増減の指令を出す。これだけで、従来より素直でスムーズなコーナリングが可能となる。

 いいクルマ造りはハードだけではなく、それを制御するソフトウェアも重要ということ。そして、ソフトウェアこそ冒頭の『優れたクルマとは何か?』という世界観がそのまま仕上がりに直結するわけだ。

 “人馬一体”のような抽象的な概念をクルマに造り込むには、開発者側に強いリーダーシップがないと焦点がボケる。マツダ車のすべてが“人馬一体”を体現しているかというと、さすがにそこまでまとめ切れていないクルマも存在すると思う。

 しかし、目指す目標がはっきりしているという意味では、ほかのメーカーよりブランドの統一感があることは間違いない。魂動デザインと人馬一体は、マツダにとってもっとも重要なキーワードといえるんじゃないかな?

【画像ギャラリー】そこにZoom-Zoomはあるか!? マツダの現行車種を一気に見る!

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