マツダは国内で、2002年4月に『Zoom-Zoom(ズーム、ズーム)』というブランドスローガンを打ち出し、心ときめくドライビング体験を提供する商品造りを目指すとしていた。
それから約19年経過し、SKYACTIVテクノロジーという次世代車両構造技術によりさらに「人馬一体」を追求している。
マツダのこれまでの走行性能戦略の歴史を振り返りつつ、挑戦は成功しているのか!? について考察していきたい。
文/鈴木直也
写真/MAZDA、編集部
【画像ギャラリー】そこにZoom-Zoomはあるか!? マツダの現行車種を一気に見る!
■初代RX-7(SA22C)からはじまったマツダの走りへのこだわり
マツダが“人馬一体”というスローガンを使いはじめたのは初代NAロードスターから。以来、マツダは走り(とりわけ操安性)にこだわりのある会社として知られている。
しかし、じつはそれ以前からマツダはハンドリングに定評のある自動車メーカーとして、業界関係者には一目置かれていた。
いまや隔世の感があるが、1980年代あたりまで「ハンドリングは日本車のもっとも遅れた部分だ」というのが、当時の自動車評論家の常套句。しかし、その中でマツダのシャシーづくりにはひと味違うヨーロピアンテイストがある。そんな評価が一般的だったのだ。
マツダがハンドリングでライバルに一歩先んじた要因は、ぼくの見るところシャシー開発チームの中で実験/評価スタッフが充実していたからではないかと思っている。
機械は機械工学を学んだ技術者がいればそこそこなものが造れる。しかし、それを血のかよった“クルマ”に仕上げるためには、「優れたクルマとは何か?」という世界観が不可欠。美味しい料理を味わったことのない人に美味しい料理は作れないという道理だ。
しかしながら、まだこの頃はメーカーの実験部で操安性を評価するテストスタッフの地位は低く、そのスキルもヨーロッパの老舗メーカーの経験豊富なテスターと比べると見劣りしていた。
この問題にいち早く着目し、操安/実験スタッフの技術と地位を向上させ、そのキャラクターを市販車に積極的に反映する仕組みを導入したのは、国産メーカーの中ではマツダが先駆者だったと思う。そして、その成果が具体化したのが『初代RX-7(SA22C)』の登場だった。
初代RX-7は古い『サバンナRX-3』の足まわりを流用するなど、メカニズム的には決して贅沢なクルマではない。にもかかわらず、切れ味鋭いステア特性は世界的にも第一級。スポーツカーメーカーとしてのマツダの名声を大いに高めた。
「ストラット/4リンクコイルの平凡な足で、よくぞこれほどシャープなハンドリングを実現した!」駆け出しの自動車ジャーナリストだったぼくは、その走りに大いに感動したのをいまだによく覚えている。
さらに、当時としては異例なことに、マイチェンのたびに足まわりのセッティングが変更され、走りが進化し続けたクルマだったことも見逃せない。
たとえば、最初期のSA22Cは回頭性にこだわるあまり早期にオーバーステアに転じる傾向があったが、約1年後のマイナーチェンジで前後のロール剛性バランスを見直してよりバランスのいい操縦性に改良されている。
単に操安性のレベルを向上させたのみならず、『スポーツカーは育てるもの』という方法論がじつに新鮮で、これまたきわめてエポックメイキングな出来事だったのだ。
もちろん、優れた実験/評価スタッフが仕事をするためには、その前提として優れた理論と設計が重要だが、この面でもマツダは先進的だった。
コメント
コメントの使い方