ポルシェはBEVの『タイカン』を発売、マクラーレンはPHEVの『アルトゥーラ』を発表した。ともにスポーツカー、スーパーカーを販売するメーカーだが、電動化に向けた初手は異なるものとなった。
フェラーリも2025年にEVのスーパースポーツを登場させることを示唆しているが、環境性能だけはその価値を見出せないのがスーパーカーだ。単にエコであるだけでは、その商品価値を失いかねないスーパーカーにおいて、電動化時代のパワートレーンはどうなっていくのか? 各メーカーの現状を踏まえつつ考察していきたい。
文/渡辺敏史
写真/McLaren、Ferrari、PORSCHE、編集部
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■ポルシェの伝統が息づく『タイカン』の走り
ポルシェが初めて手掛けた市販のBEV(バッテリーEV)『タイカン』は2020年日本にも上陸、市場ではテスライーターとの呼び声も高い。が、クルマ屋が担い続けている社会的な責務やユーザーに対する安全、信頼への担保などを鑑みれば、それはポルシェに失礼という話だと思う。
静止時からいきなり最大トルクが立ち上がるモーターの特性を活かした、えげつないまでの加速力というのは、テスラが見い出したわかりやすいBEVの個性の表現法だ。が、喧伝されるような環境性能の高さがBEVの本質であるとするならば、航続距離を求めるほどにバッテリーが重くなることは必定のBEVを、タイヤの性能限界も二の次で弾き飛ばすように走らせることに整合性が見いだせない。
それでもクルマ好きだから速さの魅力はわかっているつもりだが、その魅力が最大化されるのは初めて自分でアクセルを踏んだ瞬間であって、意外と早く体が麻痺してしまえば、満足感を味わう機会は他車と信号で並んだ時や他人を乗せた時といった、目に見える比較対象がある際で占められるだろう。
スピードの魅力も社会の受容性も知り尽くしたポルシェは、だからテスラを深追いしてはいない。タイカンは2速の変速機を用いて最高速を伸ばし、アウトバーンの国のクルマであることを主張はするも、0〜100km/h加速は最強の「ターボS」をもってしても既出だったテスラ『モデルS P100D』に劣る2.8秒となる。
それでもその加速感はワープとしか表しようがないものだが、そんなものは数回味わえば宴会芸的な付加価値にしか思えなくなる。それよりも心底感心させられるのはむしろ、じわりと走り、じわりと停まるといった微細なところからの、日常領域での速度コントロールの自在性だ。
持て余すほどの火勢を、とろ火からじんわりと使わせてくれるその柔軟性の高さは『911』の頂点である「ターボS」にさえみられるポルシェのクルマづくりの美点だが、パワートレーンが電気に置き換わろうが、人間の感覚にいかに忠実でいられるかという目標はまったく変わらないことは、『タイカン ターボS』に乗るとよくわかる。
かたやのモデルSは、タイカンを始めとしたライバルの動きを睨んでか、先に発表されたマイナーチェンジではステアリングを操縦桿さながらのスクエアシェイプに変更、0〜100km/h加速は自称2.1秒という新グレードも設定したようだ。
クロスオーバースタイルの派生車種、「クロスツーリズモ」も発表されたように、タイカンのコンセプトは、スポーツカーとしてのピュアネスを追求したものではない。日産『GT-R』の売り文句を借りれば、BEVの特性を生かしたマルチパフォーマンススーパーカーとでも表すればわかりやすいだろうか。
一方で、ポルシェは純然たるスポーツカーの電動化というテーマにおいても、すでにいくつかの答えを提示してきた。
最も象徴的なのはWEC(世界耐久選手権)のLMP1カテゴリーで常勝軍団を形成した『919ハイブリッド』だ。ここで培ったノウハウの具体的な転用はみられないものの、2023年からはLMDhカテゴリーでのWEC復帰を発表。
ここでも用いられるパワートレーンはHEVとなることから、将来あり得るだろう『911』や『ボクスター&ケイマン』の電動化も、HEVについては反映できる要素は技術面でもマーケティング面でも整っているといえるだろう。
『パナメーラ』や『カイエン』ではすでにグループ内で技術を横展開するPHEVも設定されており、ポルシェはラインナップの多面化に併せた、すべての手段での電動化を果たしそうな勢いだ。ほかのモデルが電動化を推し進めるほどに、小ささや軽さが売りのスポーツカー群は重量的にも価格的にも最も影響が小さいHEVという手段を採りやすくなるというわけである。
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