■アーバン・ブランドは電気モビリティに理想的である
思えばMINIでは、こうしたことにもトライしていた。21世紀に入ってからBMWでは、より少ないエネルギーで走りの歓びを追求するという「Efficient Dynamics」のコンセプトを掲げ、将来的な自動車の可能性を多角的に追求することを強調しはじめた。
その一環として、2007年に都市部での使用に適したモビリティ・ソリューション「メガシティ・ビークル」の開発を目的とした社内シンクタンクを発足。リサーチの結果、それはEVであることが好ましいという結論を導き出した。
そのための実験車両として、市場、行政、学術関係者等からのフィードバックを得ることを目的に「MINI E」を開発。ドイツ、イギリス、アメリカ、中国等で大規模な実証実験を実施した。
筆者も都内で試乗したことがあるのだが、MINIのコンパクトな車体に大容量のバッテリーを積むため、後席と荷室が使えなくなっていたり、加減速での急激な動きや硬い乗り心地など走りが荒削りなあたりには、いかにも実験車両らしい印象を受けたものだ。とはいえ、早くも打ち出していたアクセルの加減だけでかなり急な減速までできるワンペダルドライブの概念は、その後のBMW iでも具現化されていた。
さらに、2016年のロサンゼルスオートショーでは、第2世代のMINIクロスオーバーにプラグインハイブリッド車が公開され、翌年には日本にも導入された。こちらも当時は変わりダネ的な印象も受けたものだが、MINIが電動化に積極的であることと、その可能性をうかがわせるだけのインパクトはあった。
そして、前出のピュアEVについても、当初の予定よりはだいぶ遅れたようだが、2017年にMINIは市販EVを提案するコンセプトカーとして、MINIハッチバックをベースとする「エレクトリックコンセプト」を公開。そう遠くないうちにMINIをベースとする市販EVを送り出す予定があることをうかがわせた。
エレクトリックコンセプトの市販モデルも、『MINIクーパーSE』として2020年3月より欧州で販売されている。ネーミングは「クーパーS」に、EVの「E」を組み合わせたもの。英オックスフォード工場で生産されている。
MINIクロスオーバーの後継モデルは、2023年から独ライプツィヒ工場で、内燃エンジンおよびピュアEVバージョンの両方が生産される。
さらには、フル電気モビリティとしてイチから開発された新車アーキテクチャーをベースに、2023年以降、中国において現地メーカーである長城汽車と共同でMINI BEVを生産する予定である旨もリリースで述べられている。
あるいは、「MINIというアーバン・ブランドは電気モビリティに理想的であるため、先駆者的な役割を果たす」とも述べているとおりで、MINIは電動車両と相性がよいとBMWでももともと考えていたわけで、そのことは上記の流れからもうかがえる。こうした一連のことからすると、MINIがピュアEVブランドになるというのは、もともと大いにありえた話のように思えてくる。
逆にいうと、MINIの商品性を考えたときに、あのデザインに象徴される独自のキャラクターこそ魅力なのであって、動力源がどうであるかは、あまり問われてないように思えなくない。クーパー系はもとよりJCW(ジョン・クーパー・ワークス)のような性能をウリにするモデルも、モーターの力で十分に顧客が十分に満足できる走りが表現できるのなら、それで問題ないのではないか。
こうして2030年代初頭までに、すべてのMINIのラインアップはピュアEVになるかたわらで、「シルキーシックス」と称されるほどのものを残し、内燃エンジンの象徴的存在でもあるBMWのほうも、サイズの小さいシリーズはおそらくEV比率が相当に高くなるものと思われる。ただし、当面は内燃エンジンをまったくなくすわけではなさそう。
であればそのエンジンをMINIにも載せたほうが、ユーザーにとっては選択肢が広がる、というのは安直な考えで、むしろそうせずにEVに特化したほうが、より効率的によいものができる。そしてMINIはそのほうが相応しいと判断したということだ。
MINIはそれでよいのではないだろうか。おそらく本当にそうなる予定の2030年代初頭には、ぜんぜん違和感がなくなっていることだろう。
むしろ前出のフィアット500はわかるとして、ジャガーやボルボがEV専門となることのほうが、ずっとハードルは高いような気すらしてくる。
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