2020年12月に政府が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」政策により、2030年半ばに向けてクルマの電動化はどんどん進むことになる。
そんな時代に、EVとともに注目されるのが、FCV(燃料電池車)だ。EVよりも航続距離が長く、燃料として使われる水素の充填も、EVの急速充電時間よりも短くて済む利点があるのだが、2014年11月にトヨタが世界初の量産FCV『初代MIRAI』を発売してから、そのほかにFCVを投入したメーカーはホンダとヒュンダイ(現代)の2社だけだ。
なぜFCVを開発するメーカーは増えないのか? 今回はその疑問について考察していきたい。
※本稿は2021年3月のものです
文/国沢光宏
写真/TOYOTA、編集部
初出/ベストカー2021年4月26日号
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■燃料電池車が電気自動車のように増えない3つの理由
日本は燃費のいいハイブリッドが揃っていることもあり、国家やメディア、ユーザーすべてで電気自動車に対する気持ちが盛り上がっていない。
欧州などは、すでに50車種以上の電気自動車を販売しており、2021年だけで10車種以上の新型車が登場してくる。加えてフランスなど電気自動車を買えば車両価格の3割程度の補助が出て、エンジン車からの乗り換えだとさらに30万円上乗せされる。電気自動車を買ったほうが安いほどだ。
そんな電気自動車ながら、いまだに航続距離500kmや、急速充電にかかる時間が大きなハードルになっている。といった観点からすれば、燃料電池車は圧倒的に優れた性能を持つ。
トヨタの『新型MIRAI』で言うと、航続距離については余裕の500km超! 水素充填時間だって3分とガソリン補給と変わらない。さらに素晴らしいのが価格で、航続距離500kmの電池を積んだモデルより圧倒的に安い710万円スタートです。
しかし、燃料電池を市販しているメーカーは世界で3つしかないのが現状だ。
なぜ燃料電池車は電気自動車のように増えないのか? 直近で考えると、3つの理由によるものだ。
最大の理由として挙げられるのが技術レベル。電気自動車は多くの自動車メーカーであれば簡単に作れる。現在、電気自動車を積極的に作っていない日本の自動車メーカーだって、作ろうと決めたらマツダ『MX-30EV』のように素晴らしい電気自動車を販売できるだろう。なぜ作らないかと言えば、安い電池を調達できないからにほかならない。残念ながら、MX-30EVは価格競争力がないです。
けれど燃料電池車を作ろうとすれば、電気自動車とケタが3つくらい違う基礎研究と開発予算、技術力を要求される。
燃料電池そのものは子どもの科学教室で作れる簡単なロジックながら、耐久性を持たせたり、性能を追求しはじめたら途端にハードル高くなってしまう。そもそも燃料となる水素の扱いだって難しい。普通の配管だと劣化するし、何より漏れちゃう。市販できるコストで作れるのは今のところトヨタくらい。現代自動車だってコスト的に厳しい。
2つ目は「小さいクルマを作れない」こと。燃料電池そのものの小型化についていえば問題なし。MIRAIのスタックを半分にしてプリウス級のクルマに積むことだって可能だと思う。ただ小出力化してもコスト的には大きく違わない。小さいクルマだと大型の水素タンクを搭載することができないため、小型のものを複数搭載することになるが、1本あたりのコストは、あまり大きさに影響せず。小さいクルマだと電気自動車のコスト競争に勝てないのだ。
3つ目として水素ステーションを挙げておく。日本において新型MIRAIの販売が思ったより伸びないとすれば、これはもう水素ステーション不足ということになるだろう。
絶対的な数の少なさもさることながら、営業時間の短さや突如の営業休止も多く、信頼性が低い。水素ステーションは世界規模でもブレーキになっているようだ。ただ、これは燃料電池車の普及により解消していく。欧州の場合、10年もすれば大型トラックの多くが燃料電池になると思う。燃料電池の時代はそこまで来ている。
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