■なぜ国産勢の四輪操舵は定着しなかった?
話を戻そう。1980年代のクルマは今ほどボディやサスの剛性がなく、そのような機械的な方法(トーインをつける)では足りなかった。
そこで四輪操舵の登場となるわけだがスカイラインの「HICAS」やいすゞの「ニシボリックサス」、さらにプレリュードの「4WS」、そしてマツダも開発し、あの頃の国産メーカーはまさに後輪操舵技術のデパート状態だった。
なかでも印象的だったのはプレリュードの4WS。前輪のギアボックスからロッドを介して機械的にリアタイヤもコントロールしていた。小舵角では同位相(フロントタイヤと同じ方向)に切れ、大舵角では逆位相(フロントタイヤと逆方向)に切れるというもの。
つまり高速走行では同位相にしてリアを安定させるが、ワインディングや駐車時は逆方向に切れることで良く曲がり込むようにしていた。
ワインディングを攻めるとき、大舵角で逆位相に切れるときも、最初わずかに同位相を起こし、そこから中立を通って逆位相に切れるので不思議な感覚を覚えたものだ。しかしよく曲がり込むクルマだった。
さて、そのような4WSのデパートだった国産メーカーは次々にこの技術をやめてしまった。その一番の理由はボディ&サス剛性のアップとスタビリティコントロールの進化だ。
剛性アップは最近のクルマの安定性が優れていることで理解できるだろう。大元の剛性がしっかりしたことでタイヤの動きを正確にコントロールできているからだ。
そしてスタビリティコントロールは、DSCなどメーカーによって呼称が様々だが、要は電子制御によって4輪の個別にブレーキをかける技術のこと。ホンダのアジャイルハンドリングアシストなど、最近ではトルクベクタリングなどもこれに入る。
電子制御の進化によってすでに装備されているブレーキをコントロールするだけでスタビリティー(安定性)を手にすることができるので、機構的にもコスト的にも4WSの必要性がなくなったのだ。
■乗り心地や小回り性能にも寄与する現代の四輪操舵
しかし、今、また四輪操舵が復活しつつある。しかも外国メーカーで。
機構的にはリンクとアクチュエーターをリアサスに追加し、電子制御によって走行状況に合わせた同位相&逆位相をおこなう。ボディ剛性がしっかりしたうえに、より正確にリアホイールコントロールがおこなえるようになり、そのハンドリングはより自然で上質なものに進化してきている。
冒頭に記したベントレーは635psというハイパワーで、ワインディングでは同位相を上手に使い安定感抜群だった。
また、Uターン時など逆位相によってボディサイズでは考えられないような小回りが可能。メルセデスSクラスも小回り性能はコンパクトサイズFF車並み。駐車時など内輪差も減る。1980年代の4WSはこの駐車時に戸惑いもあったが、現在のそれはかなりわかりやすい。
最後にメガーヌR.S.の「4コントロール」。同位相は1度、逆位相は2.7度のコントロールを電子制御によっておこなうシステムだが、60km/h以下では逆位相でそれ以上のスピードでは同位相に動く。これがドライビングモードのスポーツモード以上では閾値(しきいち)が100km/hになるのだ。
メガーヌR.S.は、FFのスポーツモデルにしてはサスがソフトで乗り心地が良い。実は4WSの採用によってリアサスをソフトにすることができている。
普通FFスポーツモデルではリアタイヤの応答性を高めるためにリヤサスを硬くする。サスは固めた方がタイヤへの面圧上昇が早くなる。つまり荷重移動が早くなり、リアタイヤのグリップ上昇が早くなり安定性が増す。
しかし4WSの採用によってリアタイヤを積極的にコントロールできるからサスを硬くする必要がなくなるのだ。また、リアタイヤを積極的に使うので、従来はフロントタイヤばかり摩耗していたところ、4輪が均一になりローテーションできるようになったことでタイヤ寿命も延びたのだという。
四輪操舵は、クルマの性能を飛躍的に高める技術。コストはそれなりにかかるが、セーフティ(安全性)とアジリティ(敏捷性)の両立が可能なのだ。
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