■構造上「不利」なランフラットは今でも本当に乗り心地が悪い?
現在は、ランフラットタイヤといえばサイド補強型が主流になっています。これはタイヤのサイドウォール(側面部)内側に補強ゴムを付け加えたものとなっています。
パンクしてタイヤの空気圧が0キロになってしまうと、タイヤの側面が大きく強く屈曲してつぶれてしまうわけですが、その大きく屈曲する部分に補強ゴムを張り付ける(製造工程で)ことで、タイヤのつぶれを抑え、80km/hで80キロの距離を走行可能にしているわけです。
デメリットは、専用のタイヤが必要なことと乗り心地が悪くなることです。
そう、今回のお題であるランフラットタイヤの乗り心地の悪さは、もともとサイド補強式のランフラットタイヤが持って生まれたデメリットなんです。
タイヤはサイドウォールをたわませることで乗り心地を作り出しています。もちろんこれだけではありませんが、かなりの部分サイドウォールの柔軟性に依存しています。
ランフラットタイヤを作るメーカーも、当初(1990年代)は空気圧0キロでの走行可能距離に余裕を持たせる目的でサイド補強ゴムを厚めにしたり、耐久性の高い補強ゴムを採用していたため、サイドウォールの柔軟性が一般的な地文のようには発揮できず、乗り心地が犠牲になっていたのでした。
その後、世代が進むにつれて、サイド補強型のランフラットタイヤも進化しており、現在では、サイド補強ゴムの見直しによって、ある程度の柔軟性を確保したり発熱を分散させ耐久性を高めるなどの技術が投入されています。
ほかにも、タイヤプロファイル(断面形状)をラウンドタイプ(凸型)にすることで、乗り心地の改良がおこなわれています。
ですから、サイド補強型ランフラットタイヤは近年ではかなり乗り心地が良くなっています。
お題の「なぜ乗り心地が悪いのか」という、乗り心地が悪いのを前提とした設問は、実はかなり改善されていて、ランフラットタイヤ装着車にパッと乗っても少し走ったくらいではわからないくらいに乗り心地は良くなっているのです。
■トレンド変化で乗り心地の「差」はなくなっている!? ランフラットの「今後」
これにはもうひとつ大きな理由があります。時代のニーズでもあるのですが、ここ数年、低扁平タイヤの装着率が上がっており、ランフラットタイヤも低扁平化しているということです。
乗り心地が悪いタイヤなのだから、低扁平にしたらもっと悪くなるのではないか、と思われるかもしれませんが、ランフラットタイヤは逆に作用するんです。
55、60偏平のサイドウォールがぶ厚いタイヤは、サイド補強ゴムの量も多くしないといけませんから、サイドウォール部はどうしても固くなりがちで、乗り心地は悪くなってしまうのです。ところが、(より低扁平で、薄い)35、40扁平になると、サイドウォールが薄いぶん補強ゴムも少なくて済みます。
もともと低扁平タイヤの乗り心地は、タイヤプロファイルやサイドウォールとショルダーのつなぎ目あたり(バットレス)で出しているので、その乗り心地のノウハウがそのままランフラットタイヤでも使えるのです。サイドウォールが薄いため補強ゴムが少なくて済み重量もかさみません。
ランフラットタイヤは、低扁平のほうが乗り心地が良いというのはだいぶ前から定説ではあったのですが、低扁平タイヤが急速に普及して19インチ、20インチが当たり前にみられるようになったことで、ランフラットタイヤのデメリットが目立たなくなったのです。
個人的には、クルマの乗り心地だけでなく乗り味的な視点から見ても(現段階では)ランフラットタイヤよりも一般的なタイヤが良いと思うし、偏平率は50、45偏平程度が好みです。
一方ランフラットの進化はというと、レクサスでは比較的積極的にランフラットタイヤが導入されていますが、BMWやメルセデスベンツでは縮小方向に向いています。技術的な進化も実は2009年くらいからほとんど見られません。
コストや汎用性の面でもランフラットタイヤの普及にはいくつものハードルがあるのです。
ただ、自動運転やカーシェアリングでタイヤのメンテナンスが行き届かなくなるかもしれない状況を考えると、ランフラットタイヤにも期待したい未来像はあります。
特に自動運転では高速走行中のパンクなど、安全性の面でのメリットは大きいし、操縦性の面でもより精度の高い自動操縦を実現するためには、もしかしたらランフラットタイヤは重要な要素となる可能性もあります。
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