日本市場では長らくトヨタのシェアがダントツだが、それゆえトヨタが苦手としているのが小ロットの車作りだ。大メーカーには生み出せない独創的なモデルが、日本の自動車の“幅”を広げてきた。スバルやマツダ、かつてのホンダも然り。そんな小回りの効く組織ならではのユニークな車・技術と、その車が生まれた背景を改めて振り返る。
文:鈴木直也/写真:編集部
ホンダだからできた「クリエイティブムーバーシリーズ」の大転換
かつてのホンダは「エンジン命」の会社。ライバルのどこよりもパワフルなエンジンこそがホンダ車の魅力。その代表例が言わずと知れた「タイプR」シリーズだった。
ただ、この手のマニアックなモデルは、ブランドイメージの高揚には役立っても、それで会社が食ってゆけるわけじゃない。
バブル崩壊後の景気低迷によってホンダの業績は急激に悪化。次世代の主力となるべき新車開発が待ったなしの状況に追い込まれる。そこからの変わり身の早さが素晴らしかった。
市場の変化を敏感に見てとって、車作りのベクトルを大転換。オデッセイ、ステップワゴン、CR-Vといった、従来のホンダ車とはまったく毛色の異なる新ジャンルの車で一気に勝負に出たのだ。
この一連の“クリエイティブムーバー”シリーズが面白いように大ヒット。スポーツカーのホンダからミニバンのホンダへ、商品ラインナップをすっかり入れ替えてしまったのだ。
こういう「イチかバチか」みたいな路線変更は、トヨタのような大メーカーには無理。グローバル生産200万台程度だった当時の企業規模と、何より川本信彦さんというヤンチャな社長(第4代社長、1990-1998年)ならではのギャンブルだったと思う。
50年経てフォレスターで結実!スバルの水平対抗&AWD
創業者があまりに偉大だったため、後継者が変えるに変えられないというケースがある。わかりやすいのはスティーブ・ジョブスがひいたアップルのデザイン戦略だろう。
クールなルック&フィールと直感的な使いやすさに徹底してこだわり、そのためならコストに糸目はつけない。
この戦略は真似できても、模倣者が利益率でアップルを凌ぐことは不可能。高い利益率を維持する限り(価格が高くてもお客さんが付いて来てくれれば)、この路線は磐石といっていい。
スバルの車作りは、それに似ている。スバル 1000を設計した伝説のエンジニア百瀬晋六は、純粋に技術的合理性から水平対向縦置きFFというレイアウトを選択した。
1960年代当時としても水平対向エンジンは直列4気筒よりだいぶコスト高だったが、技術的によりクールなレイアウトのためなら、百瀬晋六は投資を惜しまなかった。
アップルと違うのは、高コスト体質に苦しめられてその後なかなか利益が上がらなかったことだが、石の上にも50年(?)、近年ようやくスバルの独自技術が脚光を浴びる時代がやってきた。
瞬間風速的数値ではあるものの、スバルの2015年度売上高利益率は驚異の17.5%! 北米を中心に水平対向シンメトリカルAWDの人気が急上昇。値引きしなくても飛ぶように車が売れた結果、8%くらいあれば上出来という常識をぶっ飛ばす高収益を実現したのである。
50年辛抱したからこそ、スバルは水平対向シンメトリカルAWDという高コストなパワートレーンで利益が上がるようになった。
しかし、ライバルが同じ土俵に参入してもコスト的に太刀打ちできないし、失敗したら使い回しの利かないパワートレーンが全部無駄になる。
自分の得意分野を50年というスケールでコツコツ磨き上げる。こういう車作りは、やっぱり大メーカーには出来ない芸当だ。
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