■トヨタとスズキの営業マンは似ている!?
トヨタが発表した、レクサスを含むトヨタの2020年度の国内総販売台数は153万8224台となり、前年同期比で96.9%であった。一方でスズキの2020年度の四輪車年間総販売台数は64万7222台となり、前年比同期比96.3%であった。
コロナ禍のなか、2020年4月と5月に一時的とはいえ、市場全体での大幅な販売台数の落ち込みがあったことを考慮すれば、前年同期レベルのキープどころか、前年同期比プラスぐらいの実績にも見えるほど、トヨタもスズキも好調に推移した。
絶対的販売実績ではトヨタとスズキでは大きな開きはあるが、筆者が見ている限りでは、トヨタとスズキの販売現場の様子はかなり似ているように見える。
例えば、トヨタのセールスマンは、初回車検すら到来しておらず、新車への乗り換えなど検討もしていないお客が点検でショールームを訪れ、点検が終わるのを待っている間に、そのお客のところへ、下取り査定額や値引きの入った見積りをもっていき、ほぼその場で新車へ乗り換えさせるセールスマンも目立つと聞く。
「初度登録から年数がたった古いクルマに乗っておられるお客様より、初回車検前など比較的新しいクルマに乗られるお客様のほうが、新車に乗り換えてもらえる可能性が高い」とは、現場のセールスマン。
お客が新車への乗り換えを検討するのを待つのではなく、「新車が欲しい」という気持ちもないお客に新車を売ってしまう、これがトヨタのセールスマンの得意技であり、トヨタ一強の原動力なのである。
一方でスズキは毎年、正月3日から“初売りセール”を行うのが慣例。筆者もほぼ毎年様子を見に3日にスズキのディーラーを訪れるのだが、ショールームは多くの来店客でにぎわっており、そのなかでも新車購入の商談をしているお客が目立つ。
単に正月で時間に余裕があるから店に来たという人もいるだろうが、多くは初売りを案内して、セールスマンが集客した“お得意様”と聞いたことがある。
ここでも、それほど新車購入に興味がないものの、来店記念品の豪華な初売りセールの案内を受けたので店を訪れて、なにげなく商談して新車を買ってしまったというケースも珍しくないようである。
もちろん、即決したくなるような値引きを中心とした、お年玉のような好条件が提示されていることもあるが、スズキでもトヨタディーラーのような売り方をよく見かけるのは確か。
“欲しい人に売る”のではなく、“あの人にこの新車を売ろう”とセールスマン個々で勝手ではあるが、売り込み時期と売り込み車種を決め、かなり戦略的に動いているのである。
トヨタやスズキのディーラーのセールスマンだけがこのような売り方をしているわけではないが、圧倒的に得意としている様子は伝わってくる。
■カリスマの引退がスズキの販売に与える影響は
また、スズキでは正規ディーラーでの直販や、副代理店と呼ばれる一般的な“ショールームを構えて販売する店”だけでなく、街のモータースや中古車専売店といった新車販売について協力関係を結んでいる“業販店”での販売台数が多いのも特徴的となっている。
街のモータースや中古車専売店は、いわば街中でのクルマについての“オピニオンリーダー”といっていい存在。そのような業販店の経営者やスタッフに、例えば「ソリオなんかいいんじゃないかなあ」と薦められて、そのまま購入を決めるという人も多い。
なお、業販店はスズキ以外にダイハツや、その他のメーカー系ディーラーとも業販契約を結んでいることが多い。そのなかでスズキの鈴木 修会長は、業販店を非常に大切にしており、折に触れ「家族は元気ですか」などと声をかけていたとのこと。
そのため、月末でそろそろ台数を締めなければならないという大事な時期になると、「鈴木(修)会長には日ごろから世話になっている」と、新車が欲しいという人にスズキ車を積極的に薦めることもあると聞いたことがある。
ただ、その鈴木会長も間もなく正式に引退となる。“カリスマ”が去ったあと、同じような関係を業販店と続けるのか、それとも新しい道を歩むのかは今後興味深いところとなるだろう。
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