最近のクルマは、内装にピアノブラックフィニッシャーが使われることが増えてきた。
ピアノブラックとは、読んで字のごとく「ピアノのようなブラック」のこと。見た目がゴージャスでおしゃれであることから「悪くない」と考えている方もおおいだろう(筆者もそう思う)。
クルマだけでなく、ゲーム機本体のボディやパソコンの筐体、冷蔵庫のドア、炊飯ジャーのボディにまで使われるようになったピアノブラック。なぜ、ピアノブラックは急増しているのか、またメリットやデメリットについても触れていく。
文/吉川賢一 写真/編集部、NISSAN、TOYOTA
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■「木目調」や「メッキ調」とも並ぶピアノブラック
木目調パネルや、メッキ調パネルなど、さまざまなフィニッシャーがあるなか、冒頭で触れたように、このところの国産車に多いのはピアノブラックのフィニッシャーだ。軽自動車のようなエントリークラスから、大型SUVのようなアッパークラスまで、昨今のクルマのインテリアには、必ずどこかに採用されている。
ピアノブラックフィニッシャーが多く使われているのは、やはりインストルメントパネル(以下インパネ)だ。例えば、先代の日産ノート。いま見ると若干ピアノブラックを多用しすぎているようにも感じるが、これによって高級感や上質感を演出していた。
また、内装だけでなく、外装のBピラーやCピラー、サイドミラーにピアノブラックを採用するクルマも多い。最大のメリットは、その仕上げの良さだろう。ピアノブラックには光沢と艶があるので、手軽に高級感やスポーティな印象を与えることができるのだ。
特に軽自動車などのコストをかけられないクルマほど、目立つ部分にピアノブラックフィニッシャーの部品が使われていることが多いようだが、国産の高額車、輸入車でも使われているため、「安いクルマの装備」とはいえない。
■ピアノブラックゆえのデメリットも
光沢や艶のあるピアノブラックフィニッシャーは、指紋やホコリ汚れ、傷などが目立ちやすい。手で頻繁に触るスイッチ類(やその周り)、シフトノブ周りなどが、触るだけで汚れる、というのは、気になる方には不快なものだ。汚れがついてしまうと、急に安っぽくも感じる。
また、光沢があるゆえ「映り込み」も気になる。光沢のある液晶ディスプレイだと、自分自身が映り込んだりして見づらいことがあるが、ピアノブラックフィニッシャーでもまさにそのような状況になる。
運転中は注視することができないクルマのインテリアにおいて、「光の加減で見づらいこともある」というのは、懸念事項だ。
とはいえ、現状はメリットが優先され、採用が進んでいるのだろう。しかしなぜ近年なって増えてきたのだろうか。
■なぜ採用増? 技術の進歩で「低コスト」が可能に
ピアノブラックフィニッシャーの部品は、ABS樹脂にブラックの顔料を混ぜた材料でつくられている。ABS樹脂は、「耐熱性」、「機械強度」、「耐油性」、「耐衝撃性」、「光沢」、「加工性」などの特徴がある汎用性の高いプラスチック素材であり、質感向上を求められているインテリアのパーツにもぴったりなのだ。
これらは射出成形によって製造されている。射出成形とは、高温で溶かしたプラスチックの材料を、金型の中に流し込み、冷却して固めるという工法のこと。その最大のメリットは、一度金型を作ってしまえば、正確で高品質な製品を、大量に素早く作ることができる生産性の高さだ。
おもちゃのプラモデルでもお馴染みで、複雑な造形の製品であっても、射出成形機によって、正確かつ速いスピードで生産される。金型のサイズにもよるが、速ければ数秒に1個のスピードで生産することができる。
ピアノブラックフィニッシャーの部品は、塗装なしで高級感のある仕上げができる「高速ヒートサイクル成形」という工法で作られている。
射出時に圧力をかけることで、金型内に樹脂がスムーズにいきわたるようにしており、また金型内の温度を緻密に制御することで、樹脂の分子が均一に並んだ光沢のある状態で凝固させることができるのだ。
かつては、樹脂成形したあとの工程で、塗装と研磨を行っていたが、この高速ヒートサイクル成形の登場によって、それが不要となり、仕上がりの良さとコスト低減(工数及び塗装時間の削減)が、同時にできるようになった。そのため、近年ピアノブラックフィニッシャーは増えているのだ。
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メッキのフィニッシャーもそうだが、使用する面積が多ければ多いほど良い、ということではない。適所に適量を使うほうが、センスがあるように思う。
安く簡単に高級感を出すことができるピアノブラックフィニッシャーは、今後もクルマのいたるところに使われていくだろう。
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コメント
コメントの使い方ピアノブラックをインパネに初採用されたのは1979年デビューの910ブルーバードからです。
これは開発された方からお伺いしたお話ですが、やはり同じ高級感と省力化により当時試験的に導入したそうですが、やはり傷が目立つとの苦言がユーザー経由で販売店にかなり寄せられたことで、マイナーチェンジのときに塗装に変更されたようです。約40年の時を経て現代では好評になるとは夢にも思いませんでした。