■職場に電話すれば、絶対に返してくる
貸した先は和歌山や近くの大阪ではない。
「借りたもん勝ちの関西はアカン」
こう野崎氏は語っていたが、借り逃げの多い関西でドン・ファンは何度も痛い目にあっている。そこで目を付けたのが都内の丸の内仲通りであった。一流企業のサラリーマンやOLを顧客とした。そして、さらには霞が関の公務員相手に貸し付けを始めたのである。
職場が職場で、職場そのものが担保であるから担保は取らないで公正証書を作成しただけで貸し付けた。返さない者の職場に電話すれば、絶対に返してくる。職場に知られたら昇進できなくなるのは間違いないから、借りた者がドボンすることはまずなかった。「審査が甘いこと」が評判を呼んで、次から次へと客がやってきた。宮内庁の職員もいたし、某地裁の裁判長もいた。会社の貸付リストを見て、私も驚いたものだ。
この頃、東京で仕事に使っていたのがトヨタのアリオンであり、これは今も田辺市内のドン・ファン宅に置いてあるし、私も田辺市に行くたびに借りていた。そのナビには、当時日本最高のホテルと評された、銀座にあった「ホテル西洋」の場所が今でも残っている。ホテル西洋は閉鎖されてしまったが、ドン・ファンは一泊7万円以上もする部屋に泊まってこのホテルの喫茶店を仕事場として利用していた。
「貸金会社の敷居は一般人には高いでしょ。だけど高級ホテルの喫茶店ならお金を借りていることも気づかれないから安心するんです」
ドン・ファン流の作戦だったのである。ティッシュ配りなどをする従業員も田辺市から飛行機で呼んで、ホテル西洋に泊めていたほど金回りが良かった。
■自慢のベンツのエンブレム
トヨタのアリオンは、都内や近郊で返済が遅れている客のところに従業員を行かせるためだった。もちろんドン・ファンが運転することもあったが、彼は長年ベンツに乗っており、リビングにはベンツのエンブレムが飾ってあった。勲章を入れるような2つ折りのケースを開けると、青いベンツマークのエンブレムが収まっていた。
「それは、長年ベンツを利用している特別な客に販売会社が贈ったものなんですよ」
野崎氏が、自慢げに説明したときの顔が浮かぶ。彼の年代で外車といえばベンツが筆頭であるのは事実であるが、ドン・ファンが何台のベンツを乗り換えたのかは分かっていない。
第2部は、美女とクルマのスクープ秘話である。
(第2部に続く)
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