■「レベル3」でも「運行支配」はドライバー
一方、日本損害保険協会ではかねてより、「自動運転の法的課題について」として定義し、自動運転に関する法的課題について検討を重ね、その結果を次のようにまとめています。
【自動化レベル2技術(運転支援車)について】
運転支援を受けた運転中であっても、ドライバーには常に運転責任があることから、対人事故・対物事故ともに、現行の法制度における考え方が適応できると判断しています。
【自動化レベル3技術(条件付自動運転車)について】
論点は大きく3つあり、それぞれに詳細な検討がなされています。
1つ目が、システム責任による部分的な自動運転となり、道路交通法上もドライバーの運転責任が一定範囲で免除される点。
2つ目が、システム責任とされる状況で発生した事故の損害賠償責任を誰が負うのかという点。
3つ目が、運行利益を得ている者と、運行支配を行なっている者の定義付が複雑である点。
運行利益とは、車両に乗り移動したことで得る利益を示します。レベル3においても従来からの解釈と同様に、「ドライバーや事業として運行している事業者が利益を得ること」と結論づけられました。
運行支配とは、文字通りの運転操作を主に行なっている者を示します。前述の通りレベル3では定められたODDに則ってシステムが機能するわけですが、たとえばODDの範囲外になる場合には、運転操作の権限委譲がシステム→ドライバーへと行なわれます。
よって、運行支配がシステム/ドライバーと変化するわけですが、レベル3が正しく稼働し、システムが運転操作の主体であったとしても、ドライバーはいつでも運転操作に介入可能です。
つまり、システムを機能させていてもドライバーが運転操作の主体者となって運転をオーバーライドできることから、「ドライバーが運行支配を行なっている」という解釈を行なっています。
これを対人事故で考えるとシステムの稼働/非稼働(ON/OFF)を問わず、これまで自賠法第3条に定められた「運行供用者責任」がドライバーに適応されるため、被害者はこれまでと同様に救済されます。
また、対物事故についても従来通り、双方の過失割合に応じて損害賠償責任を負うという、民法709条/715条に基づいた解釈が適応されます。
■サイバー攻撃を受けてクルマが暴走したら?
難しい専門用語がたくさん並びましたが、要約すれば、自動化レベル2/レベル3技術とも、対人事故に関しては自賠法による運行供用者責任とし、対物事故に関しては民法による過失責任が問われます。
システムが正しく機能し、ドライバーがそれを認識して安全な運転環境が保たれている場合には、自動化技術をもたない従来の車両と同じく保険制度が適応されます。普及過渡期に生きる我々としては一安心です。
しかしながら、将来的なシステムの高度化によって現行の法制度に新たな解釈が求められることは必至です。さらに、ボトルネックともいえる現行制度の弱点が問題視され始めました。
求められる新たな解釈の代表例は、システムが正しく機能している状態の把握と、それを失いかける可能性の高い運転状態や交通状況の把握です。
現行制度の弱点を補完するためには、共通フォーマットでのドライブレコーダーやイベントデータレコーダーの運用や設置、それらデータの保存・提出の義務化、さらには事故原因の分析体制の構築が望まれています。
また、いわゆるサイバー攻撃による事故の可能性も考えられ、仮にサイバー攻撃によって対物事故が発生した場合は、損害賠償の請求先がない可能性も考えられます。国連でもサイバーセキュリティの構築には余念がありませんが、それでも万全とはいかず、将来的な課題であると言われています。
加えて、この先の自動化レベル4になると、救済しなければならない被害者の範囲確定や、過失割合の算出など、損害保険にまつわる実務が急増することも指摘されています。
基礎的なところでは、システム欠陥が原因で発生した事故の場合、いわゆるPL(Product Liability)法に基づく製造物責任が問われますが、この解釈にも課題があります。
現行のPL法は分子が存在する有体物が対象範囲です。しかし、自動化レベルのソフトウェアアップデートが原因で発生した事故があった場合、現行制度上、ソフトウェアは無体物であるため、そもそもPL法の対象にはなりません。責任分担の明確化を目的とした、既存の法律に対する新たな解釈が求められています。
この先、技術昇華とともに自動化レベルのステップアップや、同じ自動化レベルであっても使用可能な場所が増える、即ちカテゴリーが拡がることが期待されています。
それに伴う社会的受容性の向上には、技術の進化とともに、こうした法整備の充足も不可欠です。そのためにも利用者である我々ユーザーは、政府関連のパブリックコメントや個人のSNSなどを通じて、建設的な意見を発信し、本格的な自動運転社会に対する環境整備に貢献していきたいものです。
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