■過去の失敗から学び、GT300王者へ
そこで、過去の失敗を振り返り、改善点を見出した藤波。着々と力を発揮するようになっていった。特に印象深かったのは2018年の富士24時間レース。1人で合計10時間30分もの走行時間を担当したのだが、それまでの彼にあったようなミスは全くと言っていいほどなく、チームの総合優勝に貢献した。
その流れで2018年のシリーズタイトル獲得に貢献すると、翌年の富士24時間も連覇し、ST-Xクラスも2年連続の王座を手にした。
この活躍が認められ、2020年にGT300クラスの56号車のシートを獲得。シーズン後半に2勝を挙げる快進撃を見せ、見事GT300王者となった。
一躍脚光を浴びることとなった藤波だが、2021シーズンはさらなる進化をみせている。今まであった速さに力強さが加わり、スーパーGTではレースの流れを作る上で重要な前半スティントでライバルにプレッシャーをかける走りをみせている。
第1戦岡山では1周目でポジションを上げ、接近戦となったトップ争いで遅れをとることなく先行するライバルに食らいついていった。これがピットストップでの逆転を可能にした要因のひとつでもあった。
第2戦富士でも60kgのサクセスウェイトを背負い、劣勢の展開にはなったのだが、その中でもポイントを獲得しようと粘り強いドラビングを披露。7位入賞を果たし、ランキング首位を守った。
■GT500クラス進出へむけて2021年は結果にこだわる
今季もスーパーGT以外のカテゴリーで活躍する藤波だが、そこでも光るパフォーマンスを存分に発揮しているという印象。そこには、今年にかける並々ならぬ想いがあった。
昨年、日産GT-R GT3を駆りGT300チャンピオンに輝いた藤波。もちろん、今年に向けてGT500クラスへのステップアップの可能性を模索したのだが、結果として実現しなかった。
将来的には海外の耐久レースも目指している藤波にとっては、そのひとつのステップとして、GT500クラスへの進出を直近の目標として見据えている。それを2022年に実現するためにも、今年は結果にこだわっている藤波の姿が、各レースで見受けられる。
その中でも顕著な例だったのが、今年の富士24時間レースだ。序盤の2戦では速さを見せながらも表彰台に上がることができず悔しい思いをしていた藤波なのだが、シーズン開幕前のテストから必ずと言って良いほど口にしていたのが“富士24時間の王座を奪還する”ということだった。
「富士24時間は昨年取り逃がしているので、今年はどうしても勝ちたいんです。そのためにもチーム全員でレベルアップして本番に臨みたいです」
その勝利への執念が形となったのが、まさにこのレースの決勝中だった。
藤波が担当しているスティントでディスプレイ表示に不具合が発生し、シフトポジションや回転数など、ドライブする上で欠かすことができない情報が確認できない状態に陥った。さらに燃料系統にも不具合が発生し、チームも一瞬は緊急ピットインの選択を迫られた。
■速さと粘り強さでさらなる高みへ
しかし、そこで諦めなかったのが、当時ステアリングを握っていた藤波自身だった。
「僕のスティントでディスプレイがうまく表示されなかったり、マシンにも不具合が出てしまいました。ピットに入って修復することも考えたのですが、そうしたら勝負権がなくなってしまうと思い、ギリギリまで……それこそ完全に壊れる寸前まで諦めずに対処方法を探りました。
そこで、なんとか解決策というか、ごまかしながら走る方法を見つけて、そのまま走り切ることができました」
「今年の富士24時間はどうしても勝ちたかったので、本当に良かったです。チームのみんなもすごく頑張ってくれて、ここに来るまでにマネージャー含めて全員で何度も何度もミーティングをしました。本当にみなさんに感謝しています」
それ以外にもチーム全体でミスやペナルティのないレース運びを心がけたことも大きかったのだが、この時の藤波の諦めない想いが、総合優勝の奪還につながったのは確かだ。
さらに6月初旬に行われたインタープロトシリーズでも、GT500ドライバーが多数参戦する中、彼らを圧倒する速さをみせ、ファステストラップをマーク。
結果としてはウエットからドライに変わっていく難しいコンディションで、第1戦で4位、第2戦は12位とリザルトとしては残らなかったが、速さを証明した1戦だった。
彼の主戦場であるスーパーGTは新型コロナウイルス感染拡大の影響で第3戦の鈴鹿大会が延期となり、しばしインターバルが空いている状況となっている。ただ、ここ最近の勢いを見る限り、夏以降に予定されているスーパーGTの中盤戦では、より一層目を引く走りを見せてくれることは間違いないだろう。
その活躍次第では2022年のGT500クラスドライバーズラインナップに「藤波清斗」の名前が……もしかすると、あるかもしれない。
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