■消費者の本音を見抜けなかったクルマ
別のパターンでは「そこはあまりこだわらない」という市場調査結果を得たのに、本当はこだわっていて、売れ行きを下げた失敗もある。
ダイハツの開発者によると、2代目ダイハツブーン/トヨタパッソを開発するにあたって女性ユーザーを対象に市場調査を行うと、「小回り性能などの実用性は重視するが、走りと質感にはこだわらない」という結果が得られたという。
当時のブーン/パッソはダイハツとトヨタの共同開発で、最終的な開発方針は、市場調査を尊重するものになった。
その結果、2010年に発売された2代目ブーン/パッソは、初代モデルに比べて質感が低かった。内装の造りに加えて、操舵感まで曖昧なのには驚いた。
特に13インチタイヤ装着車は、路上駐車している車両を避ける時も、進路の調節がしにくくて気を使った。グローブボックスが省かれてトレイになり、車検証は重要書類なのに荷室のポケットへ突っ込まれた。
たとえユーザーの調査から「走りと質感にはこだわらない」という結論が得られても、2代目ブーン/パッソは行き過ぎで、「モノには限度があるだろう!」と感じた。当然に売れ行きも伸び悩んだ。
そこで2016年に発売された現行ブーン/パッソは、開発から生産までダイハツが一貫して受け持ち、トヨタパッソはブーンのOEM車になった。
報道発表時の資料には「国内ユーザーの声に耳を傾け、ダイハツが軽で培ってきたノウハウを小型車に展開することで、スモールカー全体のレベルアップを図る」と記載されている。
以前は小型車のノウハウを軽自動車に展開してレベルアップを図ったが、2代目ブーン/パッソ以降は逆で、軽自動車が小型車の手本であり、目標になったことを示している。
改めて振り返ると、2008年のリーマンショック、これに続く2009年の景気低迷もあり、2010年発売の2代目ブーン/パッソと同年発売の3代目(現行)ヴィッツには、コストを費やしにくい事情があった。
その言い訳に「走りと質感にはこだわらない」調査結果が利用されたようにも思える。
■消費者のニーズを満たすスバルにも失敗したクルマがある!?
他社と違ってスバルは、ユーザーの声に耳を傾けて商品開発を行えば、ほぼ確実に好調な販売に直結する幸せなメーカーだろう。歴代WRXと、その特別仕様車などは典型だ。しかしエクシーガは失敗した。
1990年代の中盤以降、セダンは日本のユーザーを軽視した海外向けの商品になり、ミニバンが急速に売れ行きを伸ばした。
そこでスバルは2001年から、オペルザフィーラの姉妹車となるGMタイ工場製のトラヴィックを輸入販売したが、売れ行きは伸び悩んだ。
これを受けて「スバルらしい多人数乗車の可能なクルマ」について社内で議論を行い、市場調査も含めて導き出したのが「7シーターパノラマツーリング」のコンセプトだ。これに基づいてエクシーガが開発され、2008年に発売された。
エクシーガのエンジンは水平対向4気筒の2Lでターボも用意され、外観はレガシィツーリングワゴンに似ている。4WDも設定されて走行安定性が優れ、3列シートのミニバンなのに運転すると楽しい。
まさにスバルとそのユーザーが思い描くようなミニバンであった。
ところが売れ行きは伸び悩んだ。「スバルらしいミニバン」を求めるユーザーが少数にとどまったからだ。スバル車を購入する人は、基本的にミニバンを好まない。
仮にスバル車のユーザーに子供ができてミニバンが必要になれば、発想を切り換えて、セレナやヴォクシーなど多人数乗車と積載性を重視した車種を選ぶ。
つまりスバルのクルマ造りとミニバンは、本質的に親和性が悪いのだ。天井が低めでスライドドアを装着しないエクシーガは、ミニバンユーザーからも、スバル車のファンからも敬遠されて販売が低迷した。
後年には仕方なくSUV風のクロスオーバー7に発展させている。今のマツダがミニバンを扱わないのも、同じ理由だ。神様の声にも限界があり、ブランドイメージを超える商品を成功させるには、相当な困難が伴う。
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