■さまざまに広がってゆく自動運転技術
またこうした取り組み以外にも、各社では衝突被害軽減ブレーキが機能するシナリオを増やし実安全の追求を継続しています。
開発がスタートした1980年代、衝突被害軽減ブレーキのセンサーが検出できる対象は昼間の四輪車だけでした。そこから二輪車や自転車が増え、そして歩行者が加わりました。
さらに夜間でも働くようになり、車道を歩く歩行者をステアリング操作で避けながらブレーキをかけたり、横断歩道を渡る歩行者を検出してブレーキ制御を行なったりするまでに機能は拡充されました。
乗用車だけではありません。センサーの高精度化と解析技術の向上によって、たとえば三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」では、「アクティブ・サイドガード・アシスト1.0」として、左折時の巻き込み事故抑制を目的としたブレーキ制御が可能です。
筆者はテストコースでアクティブ・サイドガード・アシスト1.0搭載車に試乗し、ダミーの歩行者や自転車を使って左折巻き込み事故シーンを体験しました。巻き込み可能性が高まると段階的に、警報ランプ→警報ブザー→そして最終的にブレーキ制御と大型トラックを運転するプロドライバーに向けた専用のHMI開発が光っていました。
このように衝突被害軽減ブレーキの作動範囲が拡がり、そして対応シナリオが増えた背景にも、やはり自動運転技術が深く関係しています。
なぜなら、自動運転技術では他車や歩行者を正しく認識することで高度な運転支援や条件付自動運転を行ないますが、そこで不可欠な行動予測(顔向きや、踝の位置などから推論)こそ、衝突被害軽減ブレーキの適応範囲を劇的に向上させたからです。
世界には先天的や後天的に身体的な障がいを負われ運転操作が難しい方もおられます。その一例が「高次脳機能障がい」を患われている方々です。
ホンダによると、高次脳機能障がいを負われた方は日本国内で推定50万人程度とのことですが、そのうち70%の方が運転再開に意欲をお持ちです。こうした要望に対しホンダでは「Honda運転復帰プログラム」を実施し、リハビリテーション後の運転復帰を支援しています。
本来であれば、こうした運転復帰を希望される方向けに自動運転技術のアレンジができれば理想的なのですが……。
「福祉車両の領域にも自動運転技術を導入してほしいという声を頂いています。ただ、障がいをもたれている方々の状況は一人一人違っていることから、システムで完全にサポートするには技術的な課題が残ります。よって、今すぐの実用化は難しいとしても、将来に向け前向きに取り組みます」と前出の杉本氏は語ってくれました。
■自動運転技術の普及を切に願う人たち
2018年、筆者は鳥取県立鳥取盲学校に出向き、自動運転技術と先進安全技術にまつわる授業を行ないました。通われる生徒さんたちは視力に障がいをお持ちです。
事前に先生から、「生徒の多くはニュースで聴いた最先端の自動運転技術によって、自らの移動に自由がもたらされると期待をふくらませています」と伺っていました。
「現実を知ったら、がっかりするかもしれない……」と不安を抱きながら、私の声と用意したPowerPointに組み込んだ動画の音声を使い、正直に、ありのままをお伝えしました。
授業後、心許ない状況でいると、ある生徒さんから声をかけられます。
「すでに自動運転車両がたくさん走っているような報道がありましたが、現実は少し違うんですね。ちょっと残念でしたが、でも、例えば呼んだら来てくれる自動運転車両が将来開発されたらいいなと思いました!」と笑顔で感想を述べてくれました。
生徒さんたちは手に職をつけるため学んでいるわけですが、実際に働く現場までは第三者の方が運転するクルマで移動しなければならず、そこに少なからず心の負担を感じているとのこと。
よって生徒の皆さんは、ドライバーを必要としない自動運転車両の実用化を切に願っているのでした。
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