トレノの“逆襲”を大きく後押ししたコミック「頭文字D」
1987年になると、AE86型の後継モデルとなるAE91/92型が登場する。この世代のモデルはついにFF方式が採用され、AE86が最後のFR式カローラレビン&スプリンタートレノになった。大ヒットモデルとはならなかったものの、かなりの台数が生産されたAE86型は、手軽に入手できるスポーツカーとして、あるいは競技用マシンのベースとして中古車市場でも好調な売れ行きをみせていた。
AE86の生産終了から約8年、“ハチロク”の名前を世に知らしめることになるコミックの連載がマンガ週刊誌でスタートする。その作品こそが、現在でも走り屋のバイブルとして愛され続ける「頭文字D(イニシャル・ディー)」だ。
頭文字Dの劇中で、主人公である藤原拓海は父親の所有するAE86トレノを借り受けるかたちでドライブし、強力なマシンを駆るライバルたちと数々の峠バトルを繰り広げる。非力なハチロクを驚異的なテクニックで操り、パワーやコーナリング性能に勝るマシンを次々と撃破する拓海の姿が読者の共感を呼び、頭文字Dは大ヒットコミックになったことに加え、アニメ化や実写映画化などのメディアミックスも大々的に展開された。
一見、あまり速そうに思えない「藤原とうふ店」のロゴが書かれた白黒ツートンの“パンダトレノ”は、劇中の活躍もあってファンのハートをわしづかみにした。この人気は実車にも反映され、中古車市場ではAE86トレノへの注目度が一気に高騰し、レビンの人気を上回ってしまった。これ以降、ハチロクといえば多くの人がパンダトレノをイメージするようになり、それは頭文字Dの連載開始から26年が経過した現在でも変わっていない。
レビンにあってトレノにない特徴とは?
トレノの特徴はリトラクタブルライトにあったが、そうした方式を持たないレビン独自の装備として、上級グレードのGT APEXに「エアロダイナミックグリル」が与えられていた。エンジンの水温を感知し、温度が上昇するとグリルがオープン状態となって冷却風を取り入れるもので、通常走行ではグリルを閉じて空力効率を高め、必要に応じてグリルを開くこのシステムは、世界で初めてAE86レビンに装備された。
通常タイプのヘッドライトを装備するAE86レビンは、スタイル面でもまとまりがよく、新車人気はトレノを上回っていたというのもうなずける。
1987年のAE91/92型への移行でも、レビンはノーマル、トレノはリトラクタブルライトというスタイルは継承されるが、1991年登場のAE100/101型レビン&トレノでは、リトラクタブルライトは廃止されている。
まだまだ収まらないAE86の中古車人気、今後の動向はいかに?
2021年には登場から38年となるAE86。依然中古車市場での人気を維持しているが、状態の良い車体が少なくなってきているのは事実。特に人気の高いトレノにその傾向が強く、良コンディションの車体は高額で取り引きされている。
その価格は200~300万円台に達するなど、年式や車格を考慮すると驚異的ともいえる。なにしろ、新車販売時の価格はGTで130万円、GT APEXでも160万円だったのである。
そこで気になるレビンの動向だが、こちらは新車の販売台数が多かったこともあって、トレノに比べると相場価格は若干低めだ。とはいえ、200万円台の車体も少なくはない。このAE86人気は今後も続いていくことが予想される。
現在ではトレノに対する影的な存在となっているレビンだが、その車名は英語で「稲妻」を意味し、トレノの「雷鳴(スペイン語)」と並び立つ存在であるのは間違いない。80年代の世界を駆け抜け、今なお注目され続ける初代“ハチロク”は、永遠のアイドルであり続けるだろう。
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