■軽商用だけに限った話ではない
今回の話、連携事業としては”まずは、商用車”という考え方だ。
記者との質疑応答のなかで、スズキの鈴木俊宏社長も、ダイハツの奥平総一郎社長も、まずは軽商用での協業だが、軽自動車全体として対応するべきことも当然多いという見解を示している。
日本市場の自動車保有総数は約7800万台。このうち約4割の3100万台が軽自動車で、さらにその約4分の1である800万台が軽商用であることを考えると、当然のことだと思う。
そのうえで、今回の協業の内容を改めて見てみると、通信によるコネクテッド、予防安全技術のADAS(先進ドライバー支援システム)、そして電動化という大きく3つの領域がある。
このうち、コネクテッドとADASについては、車両に対して後付けの部品であったり、またはシステムの構築が中心となるため、協業を実現するまでも時間は比較的短くて済むだろう。
一方で、電動化については、第一段階としてはハイブリッド車における電動部品の共通化が考えられるが、スズキの鈴木俊宏社長が以前から指摘しているように「軽も将来的にはEVになる可能性がある」という視点から、車体構造を含めた、モーター、制御システム、駆動用バッテリーの共通化が進むのは、協業として自然な流れだと思う。
そうなると、スズキとダイハツ、走行性能面でそれぞれの商品の個性を明確にすることは難しくなる。
そもそも、軽自動車はOEM(相手先ブランド供給)が当たり前であり、例えばダイハツは「ハイゼット」と「ハイゼットトラック」をベースに、トヨタには「ピクシスバン」と「ピクシストラック」、スバルには「サンバーバン」と「サンバートラック」を供給している。
そのほか、2社の関係が深い協業体制の事例としては、日産と三菱の共同出資企業としてNMKVがあり、現在は軽自動車サイズの小型EVの共同開発を進めている。
となると、スズキとダイハツではコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズを通じた、共同開発車を仕立ていくのか?
それとも、このパートナーシップとは別に日産・三菱のNMKVのような軽開発に特化した別会社を設立するのかなど、さまざまな選択肢があると思う。
■軽自動車の車両規格は存続するのか?
さらに気になるのは、今後、軽自動車の電動化が進み、そしてEVになっていった時、軽自動車の車両規定そのものが必要かどうか、という議論が当然出てくるだろう。
そもそも、軽自動車は戦後、いわゆる国民車構想として生まれたものであり、その後の時代変化によってエンジン排気量の拡大や、ボディサイズの拡張などが段階的に行われてきた。
そのなかで、ミスター軽自動車というべき、現在はスズキ相談役となった鈴木修氏の功績が実に大きい。見方を変えると、鈴木修氏の現役引退を機に、軽自動車規定の新たなる在り方が本格的に議論され始めてもおかしくはない。
日本市場でのガラパゴス車として独自の進化を続けてきた軽自動車。海外からは、「この価格でこの走り、利便性、そして高いクオリティを実現するのは凄い!」と絶賛される軽自動車。
設計から生産まで、さまざまな工夫によって、軽自動車という商品はこれまで成立してきたが、本格的な電動化シフトを機に、大きく次のステップを踏む段階に入ったのではないだろうか。
スズキとダイハツの軽商用に関する協業は、軽自動車の歴史のなかで大きな転換点となることは間違いない。
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