トヨタを中心にしたトラックの電動化技術などを開発している会社に、スズキとダイハツも資本参加することが7月21日に発表された。
スズキとダイハツはこの会社の株式をそれぞれ10%ずつ取得し、資本参加を通じて軽自動車サイズの電気自動車(EV)の技術開発をするということだが、この連携によってスズキとダイハツの軽商用車は今後どうなるのか?
もしかして軽商用車はEVになり、さらに協業は軽乗用車のほうへ発展もあり得るのか?
今回の協業による、今後のスズキとダイハツの軽自動車開発などへの影響をモータージャーナリストの桃田健史氏が考察する。
文/桃田健史
写真/トヨタ、スズキ、ダイハツ、日産
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■充分に予想できた2社の協業
軽のガチンコライバル、スズキとダイハツがまさかの事業連携を発表した。いったいこれから、軽自動車はどうなっていくのだろうか?
国が2020年末に示したグリーン成長戦略では、遅くとも2035年までに軽自動車を含めた新車100%電動化を目標に掲げた。
まさか、近い将来に、軽自動車という規定が消滅してしまうのだろうか?
トヨタ、スズキ、ダイハツのトップが2021年7月21日、オンラインで共同会見を開き、トヨタが仲介役となって軽商用の分野でスズキとダイハツが協業することが明らかになった。
これは単なる2社間のことだけではなく、商用車市場全体に及ぶ大きな出来事だ。
なぜならば、2021年3月に、こちらもトヨタが仲を取り持つ形で、トラック・バス事業のライバルであるいすゞと日野の事業連携を実現しているのだが、この際に設立された商業事業全体を取りまとめるコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ社にスズキとダイハツが今回、資本参加するからだ。
実は、筆者としてはこうした5社連携が行われる可能性について、”ある人”から話を聞いていた。
ある人とは、日野自動車の小木曽聡 社長だ。2021年3月の社長就任を受けて7月上旬に、オンライン会議システムを使ったメディア関係者との意見交換会があった。
その際、筆者は 商用車の連携がいすゞと日野だけではなく、トヨタグループ内で日野とハイエースなどのトヨタ車体がより深い関係を持つことが、運送事業者などの商用車ユーザーにとってプラス効果になるのではないかと質問した。
これに対して、小木曽社長は「ユーザー目線で考えれば、トヨタの商用車だけではなく、軽(ダイハツ)も含めた関係が必要だ。私はこれまでトヨタのCV(商用車)カンパニーのプレジデントだったが、そうした話はトヨタ内ですでに進めている」と回答したのだ。
こうした発言に加えて、トヨタとスズキがインドでEV事業で連携する点などを鑑み、筆者としては”スズキとダイハツの広域的な連携実現”は時間の問題だと思っていた。
■軽商用だけに限った話ではない
今回の話、連携事業としては”まずは、商用車”という考え方だ。
記者との質疑応答のなかで、スズキの鈴木俊宏社長も、ダイハツの奥平総一郎社長も、まずは軽商用での協業だが、軽自動車全体として対応するべきことも当然多いという見解を示している。
日本市場の自動車保有総数は約7800万台。このうち約4割の3100万台が軽自動車で、さらにその約4分の1である800万台が軽商用であることを考えると、当然のことだと思う。
そのうえで、今回の協業の内容を改めて見てみると、通信によるコネクテッド、予防安全技術のADAS(先進ドライバー支援システム)、そして電動化という大きく3つの領域がある。
このうち、コネクテッドとADASについては、車両に対して後付けの部品であったり、またはシステムの構築が中心となるため、協業を実現するまでも時間は比較的短くて済むだろう。
一方で、電動化については、第一段階としてはハイブリッド車における電動部品の共通化が考えられるが、スズキの鈴木俊宏社長が以前から指摘しているように「軽も将来的にはEVになる可能性がある」という視点から、車体構造を含めた、モーター、制御システム、駆動用バッテリーの共通化が進むのは、協業として自然な流れだと思う。
そうなると、スズキとダイハツ、走行性能面でそれぞれの商品の個性を明確にすることは難しくなる。
そもそも、軽自動車はOEM(相手先ブランド供給)が当たり前であり、例えばダイハツは「ハイゼット」と「ハイゼットトラック」をベースに、トヨタには「ピクシスバン」と「ピクシストラック」、スバルには「サンバーバン」と「サンバートラック」を供給している。
そのほか、2社の関係が深い協業体制の事例としては、日産と三菱の共同出資企業としてNMKVがあり、現在は軽自動車サイズの小型EVの共同開発を進めている。
となると、スズキとダイハツではコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズを通じた、共同開発車を仕立ていくのか?
それとも、このパートナーシップとは別に日産・三菱のNMKVのような軽開発に特化した別会社を設立するのかなど、さまざまな選択肢があると思う。