リッターあたり10円以上の価格差のある「レギュラーガソリン」と「ハイオクガソリン」。
ハイオクはスポーツカーや輸入車に、レギュラーはベーシックカーなどにおもに使われているが、そもそもガソリンはなぜレギュラーとハイオクの二種類があるのか? そして海外にも同じようにハイオクガソリンなどがあるのだろうか?
モータージャーナリストの諸星陽一氏が解説します。
文/諸星陽一
写真/Suguru@AdobeStock、HONDA、諸星陽一、ベストカー編集部
■主にパワーを稼ぎたいクルマにハイオクが使われる
ガソリンスタンドに行くとスタッフから「ハイオクですか? レギュラーですか?」もしくは「プレミアムですか? レギュラーですか?」と聞かれます。「ハイオク」と「プレミアム」は同じ意味で、ハイオクタンガソリンのことです。
ガソリンレシプロエンジンは、エンジンのシリンダー内にガソリンと空気の混合気を吸い込み(直噴エンジンの場合は空気を吸い込んで燃料を噴射してシリンダー内で混合気とする)、その後にピストンで圧縮し、点火プラグで着火させ燃焼、ピストンを押し下げるという動作でエネルギーを取り出しています。
エンジンは圧縮比を上げると高い出力を得ることができます。しかし、圧縮比を上げすぎると混合気が自己着火してしまうノッキングという異常燃焼を発生します。
よくエンジンの中でガソリン(混合気)が爆発していると勘違いしている人がいるのですが、正常なエンジンの中で起きているのは“燃焼”で爆発ではありません。爆発というのは火炎伝播速度(炎が広がる速度)が音速(もしくはほぼ音速)に達した状態のことを指します。
ノッキングは混合気がエンジン内で自己着火し爆発的燃焼(火炎伝播速度が音速には達しないが通常の燃焼と比べるとすごく速い)を起こすことで、エンジンから「カリカリカリ」といったような異音が発生する状態で、それを放っておくとエンジンが故障することもあります。
それでもやはり高出力を得るためには圧縮比を上げることが求められます。そこで、使われるのがハイオクガソリンなのです。ハイオクというのはオクタン価が高いという意味です。オクタン価を上げると圧縮しても自己着火しにくい特性のガソリンとなるので、エンジンの高圧縮化による高出力化が可能になります。
つまりハイオクガソリンはパワーを稼ぐために使われます。一方ハイオクガソリンでパワーを稼ぐほどではない場合は、レギュラーガソリン仕様とすることでランニングコストを低くすることができます。
かつて国産車ではさまざまなクラスのクルマでパワー競争が行われていたので、ハイオクガソリン指定のクルマが多かったのですが、現在はそうした競争も少ないためレギュラーガソリン仕様車が増えています。
■ハイオクとレギュラーの違い
現在の日本の工業規格ではオクタン価89以上がレギュラーガソリン、96以上がハイオクガソリンとなっています。日本の自動車メーカーはこのオクタン価を目安にして国内仕様車用のエンジンを設計しています。
ハイオクガソリン仕様のクルマはスポーツタイプが多く、例えば日産GT-Rやトヨタ ヤリスの1.6L車、スズキ スイフトスポーツなどがハイオク仕様です。また、レクサスLS500hなどはハイブリッドモデルながらハイオク仕様となっています。
ハイオクとレギュラーの違いは添加物の違いです。添加物の入っていないホワイトガソリンのオクタン価が50~55と言われいています。クルマの燃料として使われるガソリンは、原料にさまざまな添加物を加えることでオクタン価が向上しています。
前述のようにオクタン価89~95のものがレギュラー、オクタン価96以上がハイオクとなりますが、一般的に販売されているガソリンのオクタン価はレギュラーが90~91程度、ハイオクが98~100程度となっています。
■ガソリンの種類を間違えるとどうなる?
さて、ハイオクガソリン仕様のクルマにレギュラーガソリンを給油、またはその逆を行うと何が起きるのでしょう? まずハイオク仕様にレギュラーガソリンを入れた場合ですが、即座にノッキングを起こしてエンジンが壊れるわけではありません。
現代のエンジンにはノックセンサーというセンサーが付いていて、ノッキングが発生すると点火タイミングを遅らせてノッキングを防止します。出力はダウンしますが、エンジンが壊れるまでに至ることはまずありません。
30年くらい前は粗悪ガソリンといわれるものが存在しましたが、今はほとんど聞くことがなくなりました。一般的に名前が知られたガソリンスタンドで給油する限りは問題ないといえます。ただし、ハイオク仕様にいつもレギュラーガソリンを入れるのは避けたいものです。
さて、ではレギュラー仕様車にハイオクガソリンを入れるとどうなるでしょうか? 出力が上がるような気がしますが、実は最近のクルマでは何も変わりません。レギュラーガソリンで最高の性能が発揮できるように設計されているため、恩恵を受けることはないのです。
例外的に、距離を走ってエンジンの燃焼室に煤が溜まっているような個体の場合、ハイオク燃料に含まれる洗浄成分によって燃焼室の煤が払われて性能が回復し、性能向上したように感じることもあります。
多くの輸入車はハイオク仕様になっています。とくに欧州車はハイオク仕様のクルマが多いのですが、これには理由があります。
例えばドイツはガソリンが3種類に分けられていて、オクタン価が一番低いものが91、中間が95、一番上が98や100となっています。もっとも低くても91なので日本でオクタン価89や90のレギュラーガソリンだと対応しない可能性があるのです。
そこで安全のため余裕を持ってハイオク仕様になっているというわけです。しかし、この設定はちょっと外国メーカーの怠慢があると私は思っています。
日本の自動車メーカーは、輸出する仕向地に合わせて細かくセッティングを変えて商品性を高めています。輸入車もそうしたセッティング変更を行うべきだと思うのですが、してきません。
これは日本のユーザーが「欧州車だからハイオクはしかたない」という姿勢でいることも輸入車がハイオク仕様のままで入ってくる原因のひとつでしょう。例えば日本のファミリーカーがハイオク指定で海外で売られたら、買ってくれるお客さんは確実に減るでしょう。
■ガソリンはエタノール混合率でさらに種類あり
ちなみに、ガソリンの仕様はけっこう国によって異なります。たとえばタイだとガソリンは純ガソリンとエタノール混合ガソリンの2種があり、それぞれがさらに細分化されています。
E85はエタノール85%、E20はエタノール20%の混合。単純に91と表記されているのはオクタン価91のエタノール10%ガソリン、95はオクタン価95のエタノール10%ガソリンのことです。
バイオエタノール混合なしの純粋なガソリン燃料は一番下の黄色帯のみ。そのほかにディーゼル燃料(軽油)や、天然ガスなども燃料として使われています。
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