今年も台風シーズンが到来している。2年前の令和元年10月に上陸した台風19号を覚えておいでだろうか? 死者105名もの犠牲者を出した猛烈な台風だったのだが、この時にクローズアップされたのが「水没車」の存在だ。現地で水没車を実際に取材した小沢コージ氏がその最新事情についてお届けする。
文/小沢コージ、写真/小沢コージ、photo AC
■海抜ゼロメートル地区のリスクを懸念
「今や水害はどこででも起こりうる可能性があります。一昨年も荒川付近はギリギリでしたし」と語ったのは事故車水害車故障車を専門に扱う株式会社タウ自動車営業部の岡本真介副部長。
もはや毎年耳にする大規模水害。去年は九州熊本を中心に、令和2年7月豪雨が起こったし、記憶に深いのは2019年の台風19号の大規模水害だろう。「弊社だけでも約1万2000台を引き取り、全国的には10万台レベルでした。間違いなく過去最大だったと思います」(タウ広報)
台風19号の特徴は、被害が非常に広範囲に渡ったことで九州こそ関係なかったが長野県の千曲川、福島県の阿武隈川を始め、茨城県、栃木県、千葉県ほかに被害が及び、東京都心に近い二子多摩川や神奈川県の武蔵小杉の高級マンションまで水没の危機に陥れた。長野の北陸新幹線の車両基地まで水没した風景に驚かされた人も多かったはず。
なかでも岡本副部長が指摘するのは都心の荒川等が流れる海抜ゼロメートル地区のリスクで「足立区、葛飾区、江戸川区、荒川の堤防を越えたら今までとはケタの違う被害になるかもしれません」。
今やタウでは、台風や線状降水帯が発生するたびに、損害保険会社などと綿密に連絡を取って情報収集し、予測を立てて水害車用の臨時モータープールを確保している。そうしないと狭いニッポン、水害車をどこに保管していいかわからないからだ。
■クルマが水害に遭った場合のリスク管理
しかし、我々の身近で水害が起きた場合、何かで対処し、身を守る方法はないのだろうか。岡本副部長が指摘するのは第1に「水害対応の車両保険にしっかり入っておくこと」。いざとなった時の自動車保険だが、自損時に役立つ車両保険は金額が嵩むため外している人は多い。「約半分は付帯から外している」とも言われるが、水害もカバーする車両保険にしっかり入っておけばちゃんと補償が受けられる。
第2に最近では水害の事前回避の例もある。例えば去年の令和2年7月豪雨だが、九州佐賀地区に関しては、一昨年にも同様の大規模水害が起こった経験から、前日までに高台にクルマを避難させておく人も多かったという。もちろん、豪雨当日の避難は移動中に深刻な水害を受ける危険性もあるのでまったくオススメできないが、予報を聞いて前日以前にクルマを動かしておく手はある。
第3の最大の問題が水害後だ。例えば、クルマが水害を受けたとしても、そのうち本当に鉄屑になるのは約35%。残りは再利用されて約6割はナンバーそのままで修理、売却されたりする。
ところが、水に濡れた内装などを見て「水害車は価値がない」と決めつけ、怪しい業者にお金を払って引き取ってもらう人もいまだに多く、ある種火事場泥棒的な被害が絶えない。だが、水害車専門の業者が見れば、しっかりと価格は付くのだ。
■水没車被害の実際
ただし、損傷度合により残存価値は異なり、俗に言う屋根まで水に浸かった冠水車とフロア下に留まる軽度なもの、清水、泥水、海水と浸かる水の質によっても異なる。
現在、タウではざっくり水没レベルと1から6まで分け、ネット上で査定できる仕組みを用意しており、「水害車売却シミュレーター」(www.tau-reuse.com/assessment/suigai/)を見ればわかる。
具体的に水没レベルはフロア(床)上、シート上、ハンドル上、屋根までの4段階があり、さらに損傷後にエンジンをかけたか、かけてないことも加えて6段階に分けられる。
具体的には19年に小沢が佐賀で見た4〜5年落ちのトヨタマークX。水害なしなら中古車相場100万~120万円だったものが、屋根まで冠水で車内はすでにぼろ雑巾のような匂いでムンムン。しかし、水が淡水だったので買い取り額は15万~20万円。小沢は案外高い! とも思った。
そして水没レベルで価値が変わり、ハンドル上では20万円だったクルマが、シート上で30万円、フロア上で40万円と変わる。水害は水害でも軽度なものならば、価値は半分残る可能性があるのだ。
また、残存価値を大きく分けるのが、水没後にエンジンをかけたか、かけていないかの有無。走りながらノーズが水に浸かり、エンジンが水を吸い込むことを専門家は「ウォーターハンマーと」呼び、その結果エンジンはダメになる。急激に冷やされることでピストンなどが割れ、パーツのなかで最も高値で取引されるエンジンに値が付かなくなる。それだけで30万~50万円は変わる。
同様に水害後しばらくしてクルマが乾いたからといってエンジンをかけてしまい、より損傷を深めてしまう場合も多く、かけるかけないは大ごとなのだ。
さらに気になっていたのはEVであり、ハイブリッドの扱い。フル電化商品なのでてっきり水に弱く、低値安定かと思いきや、ガソリン車と変わらないくらいに高値が付く。
なぜならガソリン車でもEVでも直す部分は電気系統と変わらないし、逆にエンジンがない分、故障する範囲が狭まるので安心。また日本製EVだと防水加工はバッチリで、実際小沢が現場で見た3年落ちのリーフはシート上水没だったのに下取り100万円。基本は中古車相場に依存する。
電動車は水没に弱い、はある意味都市伝説だったのだ。
■損害履歴を知ることで納得して購入できる中古車
そのほかタウは2019年からBP事業部をスタート。損害車・水害車を鈑金・修理し、付加価値を付けた中古車の小売りも始めている。
※販売方法は店舗販売とGooネットの2パターンとなる。
Gooページ:
https://www.goo-net.com/usedcar_shop/0207677/stock.html
ポイントはすべての車両に関して、水害や損傷箇所を明らかにし、どのような修理を施しているか、情報をフルオープンにしていること。また、「Goo鑑定」を受けているのも安心材料だ。なぜなら去年岐阜の中古車ショップで水没履歴を隠して売ったことが問題になり、公明性が求められているからだ。
厳密に言うと水害車に対して法的な表示義務はない。だが、規約はあってそれは「自動車公正競争規約」。これは「景品表示法」(正式名、不当景品類及び不当表示防止法)を受けて作られた規約になる。反すると、軽い順から警告、差し止め、違約金、除名、といった処分があり、自動車公正取引協議会の会員企業は制裁を受けるので、事実上の法的違反となるワケだ。
今後この厳罰化は進むと思われる。
【画像ギャラリー】実際に水没被害にあったGT-R、初代リーフ、マークXの写真。オトクな中古車としての行き先はどこに……(11枚)画像ギャラリー
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