トヨタが軽自動車の販売を始めて10年が経過する。この10年間、積極的に販売はせず、知名度もそれほど高くない。時々、トヨタの軽自動車ピクシスシリーズが走っているのを見るが、ユーザーの中には、軽自動車がトヨタエンブレムを付けていることを不思議に思う人もいるのではないだろうか。
ホンダ・日産・三菱など、軽自動車に力を入れる日本メーカーが多い中、トヨタだけは、軽自動車のラインナップに消極的だった。トヨタが軽自動車を扱う意味はどこにあるのだろうか。筆者の販売現場での経験から、トヨタ販売店に軽自動車が必要なのか、それとも不要なのかを考えていく。
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA
■トヨタ販売店が軽自動車を扱う意味
トヨタの軽自動車販売は2011年のピクシススペース(ムーヴコンテOEM)からスタートした。
当時の取り扱いはカローラ店とネッツ店に限り、一部特例として軽自動車保有率の高い地域(青森県、秋田県、鳥取県、島根県、四国地方4県、福岡を除く九州・沖縄地方)では、トヨタ店とトヨペット店でも扱いを認める形をとる。
待望の軽自動車販売に、喜びの声がある一方で、販売店の中には軽自動車を扱うことで、トヨタブランドのイメージが下がると、導入に反対する声もあった。
全国の多くのトヨタ販売店では、軽自動車を取扱う意味が殆どないと思う。一部需要がある地域は別だが、販売店も本気で軽自動車を売る気はない。しかし、数は少ないかもしれないが、軽自動車ラインナップをやめることで困るユーザーがいる限り、トヨタが軽自動車の販売を止めることはないだろう。
販売のトヨタが、唯一本気で売らないクルマ、それが軽自動車なのである。
■トヨタにとって需要も利益も少ない軽自動車
現在のトヨタ軽自動車ラインナップは、乗用車でピクシスエポック(ミライースOEM)・ピクシスジョイ(キャストOEM)・ピクシスメガ(ウェイクOEM)の3種類に限られる。さらに軽トラと軽バンが用意されるだけだ。モデルライフが長く、お世辞にも人気車とは言いづらいクルマが並んでいる。
良い軽自動車が欲しければ、トヨタ傘下のダイハツ販売店に行くほうが得策だ。タント・ムーヴ・タフトなど、魅力的なクルマが揃っている。軽自動車だけを、わざわざトヨタ販売店に買いに行く必要はないと思う。
トヨタの軽自動車は、普通乗用車を使っているトヨタユーザーや、ダイナやハイエースを使う法人ユーザーの「ついで買い」に対応するために存在する。
実際、販売現場でも売れていくことに文句はないが、同時に売れなくても文句は出ない。筆者も、軽自動車の販売目標を与えられたことは無いし、店舗運営の中でも、軽自動車の販売ノルマについて、耳にすることは少ないのだ。
利益の面でも、軽自動車に大きな期待はできない。台当たりの利益は非常に小さく、販売後の整備費用なども大きくなりにくいため、販売店から見ると普通乗用車に比べると不利益商品に見えてしまう。
販売店利益や、少ない需要を見れば、軽自動車販売は不要なモノの筆頭とも言える。しかし、2台、3台と一世帯が複数のクルマを保有する地域では、トヨタの軽自動車が売れていくのも事実だ。実利よりも、ユーザーとの関係性を強固にするために、トヨタは軽自動車を活用しているのだろう。
トヨタ販売店にとっての軽自動車販売は、目の前の利益や需要を見込んで行っているものではない。ユーザーと販売店の強い絆で生み出される。何年後かの大きな利益へつなげるための試金石なのである。
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