■既存の街と共存するために
では、XTURISMOや最近世界中で試作機や開発構想が発表されている「空飛ぶクルマ」は、現実には見込みのないものなのかというと、そうとも言い切れない。地表すれすれを飛んで道路交通と混走するのではなく、高空に舞い上がればいいのだ。
現在の航空関連の法規では、ヘリコプターは市街地では高度300m、それ以外のところでは高度150m以上を保って飛行するように定められている。
前者は東京タワーより少し低く、後者は霞が関ビルより少し高いという感じだ。開放コックピットでその高度を飛行するのは高所恐怖症でなくとも少々恐怖感を覚える可能性がある。通常のエアモビリティはキャノピーを持つクローズドボディが主流になっていくことだろう。
では、XTURISMOのような機体はどうなるのだろうか。少々難しいことだが、騒音対策をしっかりやったうえで、無線操縦のドローンが飛ぶ低高度を一部開放してもらえるよう要望を出すという手がある。
低高度は地形によっては飛行が難しいうえ、高圧線や普通の電線、建築物などの設備との干渉も考えられるので飛ぶのは簡単ではないと思われるが、最低高度の保持や飛行禁止区域に入れないようなシステムを実装するなど、許認可を求める側の努力も問われるところだ。
もう一点の難問は、自律飛行型でないエアモビリティの場合、免許制度をどうするかということだ。ヘリコプターの操縦に必要な回転翼免許はセスナなどを飛ばすための固定翼免許に比べて取得が難しく、費用もきわめて高額(自家用で数百万円が必要)だ。
ドローンは回転翼だが、姿勢制御は自動化されているため、ホバリング(空中静止)のようなテクニックは必要ない。また、ヘリコプター操縦で要求されるオートローテーション(動力を切り、風圧によるローターの回転だけで滑空着陸する)はそもそもできない。
操縦免許がウルトラライトプレーン(空域を制限して飛ぶ動力付きハンググライダー)並みに簡素化されれば操縦訓練と飛行にかかわる法令学習を合わせて50万円くらいでいけるようになるかもしれない。
■空飛ぶクルマはどうか
XTURISMOのような単座ないし複座、開放コックピットの機体がプレジャー色の強いパーソナルエアモビリティとすると、俗に言う“空飛ぶクルマ”はもっと実用性に振ったものだ。
機体が大きく、多人数乗機や大荷物を搭載可能なペイロードを持ち、道路が真っすぐに通っていないところを直進したり、渋滞をパスしたりしながら目的地まで飛ぶという、空中タクシーのような役割が期待されている。
こちらのほうはパーソナル型よりもクリアすべき要件は多く、技術的にも難しい。パーソナル型のほうは有視界で人間が操縦するのだが、飛行OKとなる視程の基準は意外に厳しく、低高度に雲があったりするともう飛べない。
旅客や貨物を運ぶ商用機がそれではまったくお話にならないので、天候によらず飛べるように操縦士を介さない完全自動操縦、そして離陸から飛行、着陸までフルに管制下での運行が要求されるものと考えられる。
実現は簡単ではない。空飛ぶクルマが数機という状況であれば自動操縦と航空機に装備される衝突防止システムのコンボでいけるかもしれないが、数が多くなると空はたちまち混雑し、安全運航ができなくなる。
もともと空はポッカリと空いているように見えて、実はかなりタイト。一般の航空機でもちょっと管制ミスをしたり、パイロットが指示を聞き間違えたりするだけで空中衝突に発展するくらいだ。
コメント
コメントの使い方パーソナル型も空飛ぶ車も仮に実用化されても航空免許持った限定された人間がヘリポートで使うのが関の山だろう。街には電線だらけだから迂闊には飛べないし。