なぜ増えない? 便利なのに…左右非対称のクルマの利点となるほど厳しい重荷

なぜ増えない? 便利なのに…左右非対称のクルマの利点となるほど厳しい重荷

 片側だけがスライドドアになっていたり、Bピラー(助手席側中央の支柱)がなかったり、左右でちがうデザインを持ったクルマはいくつかあります。

 しかし、クルマは、時には100km/hにも達する速度で走行するもの。左右で重量や剛性が違うことで、走行したときに不安定になったりなど、走行性能や安全性能に悪影響を及ぼすことはないのでしょうか。

文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:DAIHATSU、HONDA、TOYOTA、NISSAN、MITSUBISHI

【画像ギャラリー】超絶便利!! 左右非対称デザインによって、利便性に特化したクルマたち(33枚)画像ギャラリー

意外と多い、左右非対称のクルマ

 販売されているクルマの多くは、外見上、左右で大きな違いはありません。しかし、遡ってみると左右非対称のクルマは意外と多く、古いところでは、助手席側の後席のみドアを装備した三菱の2代目ミニカトッポ、運転席側はヒンジドアで、助手席側には大型スライドドアのみを装備したトヨタのポルテ、また、ランクル70のリアゲートは左右のサイズが異なる観音開きの非対称ゲートでした。個性的なデザインが人気だった、日産の2代目以降のキューブも左右非対称デザインでした。

 また、最近は、ほとんどのミニバンが両側スライドドアを採用していますが、日産セレナなど、初期のころは助手席側後席のみスライドドアとなっているモデルも多くありました。現在、片側だけスライトドアを採用しているモデルは、トヨタ「ハイエース」や日産「キャラバン」などの商用車に限られます。

 そして、左右非対称のクルマとして、よく取り上げられるのが、ダイハツ「タント」やホンダ「N-VAN」などのBピラーレスのクルマ。この構造によって助手席側の開口部が大きくなり、乗降性や積載性を飛躍的に向上させています。

 左右でデザインが多少違うくらいなら、影響は少なそうな気もしますが、重いスライドドアの有り無しは不安定になる気がしますし、Bピラーがないとなると、強度は大丈夫なのか、という気もしてきます。しかしもちろん、自動車メーカーはしっかりと対策しています。

ピラーレス構造を採用したダイハツのタント。フロントドアとリアスライドドアを全開すると、幅1480mm×高さ1355mmの圧倒的に広い開口部を実現
ピラーレス構造を採用したダイハツのタント。フロントドアとリアスライドドアを全開すると、幅1480mm×高さ1355mmの圧倒的に広い開口部を実現

足回りのチューニングでキャンセル

 スライドドアは、構造上部品が多く重くなるため、片側だけをスライドドアにすると重量と剛性のアンバランスが発生します。ピラーレスのスライドドアでも、Bピラーに相当する補強材をドア側に内蔵するため、重量が増大してアンバランスとなります。

 もちろん、クルマが左右非対称であることは、左右の重量や剛性のバランスを崩す原因となります。究極のスピードとハンドリング性能が求められるF1のマシンでは、重量バランスによる走行性能への影響を避けるため、ドライバーが乗るポジションを含めて、徹底的に左右対称が図られています。

 ただ、一般的な乗用車では、完全な左右対称とはなっていません。エンジンやトランスミッションは左右対称で搭載されていませんし、乗員の数や乗る場所によってもバランスは崩れます。たとえ見た目が対称であっても、厳密に言えば直進安定性や左右のハンドリング特性は、多少異なるはずです。

 もちろん、一般のドライバーであっても、乗員の数や乗車位置の違いによって、右旋回と左旋回で違和感を覚えることもあるでしょうが、できるだけ重量や剛性のアンバランスをドライバーが感じないよう、主として足回りのチューニングでロバスト性を高めています。

 片側にスライドドアであることで、左右に数10kgの重量差があったとしても、クルマの走行性能に影響を与えることがないようつくられているのです。

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