追加生産650台発表も…ホンダはなぜS660を作り続けることができなかったか!?

追加生産650台発表も…ホンダはなぜS660を作り続けることができなかったか!?

 あのS660 を2022年3月に生産終了するとホンダが発表したのが2021年3月だった。その後、反響の大きさはすさまじく、瞬く間に完売してしまったことからホンダは同年11月1日になって650台を追加生産することを発表した。

 ホンダがなぜS660を作り続けることができなくなったのだろうか。その一方、ダイハツは同じ軽スポーツモデルのコペンローブを販売し続けている。この背景について、松田秀士氏が分析する。

文/松田秀士
写真/ホンダ、ダイハツ、池之平昌信、西尾タクト

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■ビートの再来として期待されつつ迎えられたS660!

 ホンダはS660の生産を終了する。このニュースが流れた時、1991~96年まで販売されたビートを思い出した。S660と同じくミドシップの後輪駆動オープンモデル。ビートは惜しまれながら生産を終了したモデルだが、いまだにマニアは存在する。

1991年にデビューしたホンダビート。エンジンは自然吸気のE07A型で直列3気筒SOHC、MTRECを搭載、64ps/8100rpmの高回転まで回るまさにスポーツエンジンだった
1991年にデビューしたホンダビート。エンジンは自然吸気のE07A型で直列3気筒SOHC、MTRECを搭載、64ps/8100rpmの高回転まで回るまさにスポーツエンジンだった

 S660はあのビートの再来かと、ビートマニアだけでなく多くのホンダファンの期待を背負って世に送り出された。ボク自身もさまざまなシチュエーションの試乗会でステアリングを握り、また個人でもS660の広報車をお借りして日常的に試乗した。

 S660の楽しさは気軽にどこにでも出かけられ、軽自動車であるがゆえの独特な乗り味のなかに本格的ミドシップスポーツのハンドリングを併せ持っていることだ。富士スピードウェイの国際コースで全開ドライブした時も、トップスピードは速くないがコーナーをクリアするたびに快感を与えてくれた。群馬サイクルスポーツセンターの超ワインディングコースでは、モデューロXの上質な走りにも感動した。

■S660が生産を終了するわけ

 そんなS660の生産が終わるなんて……。どうしてホンダはS660を終了するのだろうか? すでにさまざまな理由がネット上にもあふれている。

 まず、はっきりしていることが、日本では世界に先駆けて2021年11月販売の新型車から「衝突被害軽減ブレーキ」の搭載が義務付けられたこと。いわゆるプリクラッシュブレーキなどと呼ばれる自動ブレーキのことだ。

 ただし、2021年11月から販売する新車ではなく新型車が対象であり、S660のような継続販売車両に関しては2025年12月まで猶予されるのだ。あと4年の猶予期間があるのに林先生じゃあるまいし、「今でしょ!」はどうよ? と言いたくなる。まぁ、先送りしない姿勢を評価するという見方もあるのだが。

 ホンダのほかの軽自動車には「ホンダセンシング」といって普通乗用車と同じレベルの安全装備が搭載されている。それをキャリーオーバーすれば問題は簡単に解決するように思われるかもしれないが、実はS660は専用開発されたプラットフォームを採用する。

S660はもともと自動車部品メーカーの八千代工業に生産委託され製造されていた。しかし、経営方針によりこのラインはホンダに買い取られ、2018年からホンダ100%子会社のホンダオートボディーとして再出発している。このあたりも影響があるのかもしれない
S660はもともと自動車部品メーカーの八千代工業に生産委託され製造されていた。しかし、経営方針によりこのラインはホンダに買い取られ、2018年からホンダ100%子会社のホンダオートボディーとして再出発している。このあたりも影響があるのかもしれない

 なにせほかの軽自動車はFFのプラットフォームなのに対して、S660はミドシップの後輪駆動。つまりS660だけのためにMRの専用プラットフォームを設計したのだ。だからS660はスゴイ! しかし、このことによって簡単にほかの軽自動車の装備を移植することができない。

■ホンダeのコンポーネンツを利用してBEVの軽スポーツを作ってくれ!!

 ならば新たに開発すればいいではないか。同じオープンスポーツのくくりでいえばマツダのロードスターにはすでに衝突被害軽減ブレーキが装備されているのだ。

 赤外線レーザー、光学カメラ、ミリ波レーダー。このうちどれを装備するかによっても異なってくるだろうが、さらにS660の専用開発が必須になってくるわけで、ホンダはN-BOXの販売台数の1%強である月販売台数(200台強)にしか過ぎないS660にそこまでの予算はかけられない、というのが本当のところではないだろうか?

 また、ホンダはカーボンニュートラルの推進のため将来BEV(Battery Electric Viecle)か、水素燃料自動車にすることを発表している。いまさら内燃機関自動車に予算を割けないということも考えられる。

 それならそれでBEVの軽スポーツを新たに開発してくれるかもしれないという期待も湧いてくる。ホンダeのコンポーネンツを利用すればそれほど難しくない話のようにも思えてくるのだ。

 ともあれ生産終了の遠因は、ほかにも年々進化してゆく衝突安全への対策も不可避と言われ、タイヤが転がる時の音を含む騒音規制への適合もある。とはいえ、ビートはあの時代に頑張っていたのだが。S660はこうもあっさり諦めてしまうのか。

 ベストカー本誌で、僧侶でもあるボクが生産終了となるオデッセイ、レジェンド、クラリティを念仏供養したばかりなのだが、今度はS660も供養しなくてはならなくなるとは。

■最後の軽オープンスポーツであるコペンも生産終了になる?

 さて、そこで思い起こされるのが同じ軽オープンスポーツとして人気のダイハツコペンはどうなるのか? ということ。

2019年に発売が開始されたコペンGRスポーツ。専用レカロシート、MOMOステアリング、3連メーターにエクステリア、サスペンションのチューニングまで施されベース車との価格差約30万円!!(MTモデルにはLSDまで奢られている)
2019年に発売が開始されたコペンGRスポーツ。専用レカロシート、MOMOステアリング、3連メーターにエクステリア、サスペンションのチューニングまで施されベース車との価格差約30万円!!(MTモデルにはLSDまで奢られている)

 実はコペン、今年4月にドアミラーを拡大し、オートライトを新しく設定して標準装備としている。明らかに姿勢が見える。しかし、「衝突被害軽減ブレーキ」は装備されていない。ただし、コペンの場合はS660とは異なり、プラットフォームは専用設計ではない。

 コペンはFFなのでミライースとプラットフォームを供用しているのだ。こちらはなんだか期待が持てそうだ。例えば次期型へのフルモデルチェンジでムーヴなどとプラットフォームを供用すれば、スマートアシストⅢなどの最新の安全装備を備えることが可能となる。

 今のところダイハツからは次期モデルや生産についてのアナウンスはないのだが、コペンは月販売台数もS660とそれほど大きく変わらないだけにその動向が気になるところではある。ただ、コペンにひとつ希望が持てるのはGRモデルが存在することだろう。

 いわゆるグループ企業のトヨタのお墨付きを得ているわけで、そう簡単に生産終了というわけにもいかないのではないだろうか。つまり、2025年12月の猶予期間が切れるまで生産を続け、その間に販売の動向を静観して次期モデルの方向性を探るのではないか?

■煩悩をあおりまくるS660は罪なクルマだ!

 こうも軽オープンスポーツに対する希望的予感が先走る気持ち。それはやはり、S660への喪失感が大きいことを痛感するのだ。ボク自身はS660を所有していないし、生産終了のニュースを耳にして、さらに追加生産モデルも売り切れ! と聞き「しまったぁ!」という気持ち。

S660の集大成にして最終形の「モデューロX バージョンZ」。ブラックエンブレム、ステルスブラック塗装アルミホイール、専用アクティブスポイラーがモデューロXとのエクステリアの違いで、6MT車が税込み315万400円
S660の集大成にして最終形の「モデューロX バージョンZ」。ブラックエンブレム、ステルスブラック塗装アルミホイール、専用アクティブスポイラーがモデューロXとのエクステリアの違いで、6MT車が税込み315万400円

 手に入れておけば、楽しく、気持ちよくドライブできて、おまけに投機的経済効果も付いてくる。邪悪な動機ではあるけれども、やはり持つことの喜びがあるクルマは大切だ。煩悩全開! こんな気持ちにさせるS660というクルマは罪なモデルである。

 もしかして、4年も先取りして今、生産終了するからこそS660に付加価値がある、と先読みしているとしたら。ホンダさん、罪作り! まぁボクの考え過ぎなんだろうけど。

 その裏返しとなるコペンよ、頑張ってくれ!

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