ソニー/ホンダ連合とアップルカーが激突! アップルカーはどうなるのか?

■アップルカーの開発進行状況は昨年後半から加速?

 こちらの表はアメリカ カリフォルニア州陸運局が発表している、2020年12月から2021年11月までの1年間でのカリフォルニア州の公道における自動運転車による走行距離を製造者ごとにまとめたデータだ。

 テキサス州やアリゾナ州、中国などでも自動運転車の公道テストは行われているが、やはり次世代EVの最大の開発拠点はシリコンバレーのあるカリフォルニア州。ここでの走行距離の多さである程度の開発動向が窺える。

カリフォルニア州の公道での自動運転車のテストでは、Google系のWaymoとGM系のCruiseの2社のロボタクシー会社の走行距離が突出している(カリフォルニア州陸運局データより筆者作成)
カリフォルニア州の公道での自動運転車のテストでは、Google系のWaymoとGM系のCruiseの2社のロボタクシー会社の走行距離が突出している(カリフォルニア州陸運局データより筆者作成)

 アップルの自動運転車の走行距離は、テストを行なっている製造者のなかで14位。13,272マイル、およそ21,000キロ。トップのGoogle子会社のWaymoと比較するとわずか0.6%ほどにすぎない。

 自動運転走行距離1位のWaymoと2位のGM子会社のCruiseは、サンフランシスコの指定されたエリアで、セーフティードライバーが同乗する自動運転タクシーサービス(ロボタクシー)を有償で提供する認可を先月末に得た。

 Waymoは24時間時速65マイル(約100キロ)までの速度での自動運転が許された。つまり、自動運転での走行距離が多ければ多いほど実用化に近づいているということがいえる。

 実用性と安全性が確保されることが実証されるわけで、上位2社に比べるとまだアップルの自動運転技術は伸びしろがあるということだろう。

 ただしアップルのテストカーの月ごとのテスト走行距離を見ていると、開発責任者が交代した2021年末になって走行距離が伸びていて、開発が加速していることを窺わせる。

アップルカーの開発が2021年の後半から加速していることを伺わせるデータ(カリフォルニア州陸運局データより筆者作成)
アップルカーの開発が2021年の後半から加速していることを伺わせるデータ(カリフォルニア州陸運局データより筆者作成)

 またアップルのテストカーが、公道テスト中に事故を避けるために人が介入しなければならなかった事例は過去1年間に663件あったが、その理由のトップ10は以下の通り。

現実の路面状況が事前情報と違った時のクルマの挙動の改善や、次に左折しなければならないのに右側の車線にいる、などの問題を克服している途中にあると見られる(カリフォルニア州陸運局データより筆者作成)
現実の路面状況が事前情報と違った時のクルマの挙動の改善や、次に左折しなければならないのに右側の車線にいる、などの問題を克服している途中にあると見られる(カリフォルニア州陸運局データより筆者作成)

 自動運転モード解除の理由で一番多かったのは、「マップ不一致による望ましくない動作計画」。

 これは、道路工事が行われていて本来通れるはずの1車線が通れない、など、過去の地図情報と現在の路面状況が一致せず、それをセンサーで感知できずにクルマが危険な挙動をしたことによるもの。

 1年で21000キロ走って、663件の介入件数なので、30キロ走るごとに1回人が介入しなければならない。この頻度は高すぎて、まだアップルが目標としている、完全自動運転車の開発が近づいているとはまだ言えないかもしれない。

■アップルカーはどんなテクノロジーを搭載するのか?

 アップルカーの開発状況については、アップルがBEVに関するどのような特許を申請しているかで窺い知れる部分もある。直近は、熱を持ちやすいBEV冷却用の高効率水冷システムや、クラウドではなく車両ベースで行動計画の意思決定ができる機械学習モデルとアルゴリズム、交流と直流電力を同時に充電できるモジュラー充電システム、アクティブサスペンションなど、数多くの特許を取得している。

 そのなかでも面白そうな技術を紹介してみよう。

 下の図は、ドライバーの頭の位置をカメラで把握して、フロントガラスに右目用と左目用と別々の映像を投射して3D画像が見られるヘッドアップディスプレー装置の特許の概念図だ。

アップルの取得した3D画像をフロントガラスに投影する技術の特許の概念図(出典:アメリカ特許商標局)
アップルの取得した3D画像をフロントガラスに投影する技術の特許の概念図(出典:アメリカ特許商標局)

 実際の景色にコンピューター画像を追加するAR(拡張現実)技術を用いて、フロントガラスに大きなナビゲーション情報を立体的に映し出したり、充電待ちの間に立体画像でのエンターテイメントを楽しむことができるようになるかもしれない。

 これ以外にも、アップルはウインドウシールドをそのままモニターとして使ってしまう特許も申請している。

 普通のクルマは、安全性と遮音性のためにプラスチック膜を挟み込んだ合わせガラスをフロントガラスに使っているが、プラスチック膜の代わりに液晶パネルを挟み込み、ガラスそのものをモニターとして情報を表示してしまおうというアイデアだ。

 下の図は、アップルが取得したクルマのドアの開閉ヒンジの特許の図だ。この図はクルマの正面から見た時にドアが開いている状態を示しており、ドアが上方にはね上げられ、大きな乗降用の空間ができることを想定していることがわかる。

 開いたドアは点線で示されているようなポジションにも動かすことが可能だ。ガルウイング式のドアだと横幅の狭い駐車場に対応できず、シザーズ式のドアだと高さが必要になるので、狭い駐車場でも広いドア開放面積を確保するための仕組みのようだ。

アップルが特許申請した新しいドアヒンジの形状、狭い駐車スペースで大きなドア開放面積を確保するもののようだ(出典:アメリカ特許商標局)
アップルが特許申請した新しいドアヒンジの形状、狭い駐車スペースで大きなドア開放面積を確保するもののようだ(出典:アメリカ特許商標局)

 また、LEDもしくは有機ELをクルマのインテリアに使われるファブリックや革の中に仕込んで、必要な時だけシートやドアの内張りやシーリング、シートベルトまでモニターに変えてしまい情報を映し出す技術の特許も取得している。

 この技術と静電容量式タッチセンサー(スマホ画面を触ると文字が打てる仕組みに使われているセンサー)を組み合わせるとクルマのインテリアのいたるところをスイッチとすることができる。

 例えばダッシュボードを指でフリックすると、それまでは普通のダッシュボードにしか見えなかったのに表面にあたかもスマホのホーム画面のようなものが表示され、エアコンの温度やシートの角度を調整できるような技術だ。

 これ以外にもアップルは多くのBEV関連の特許を申請・取得している。これらの技術の全てがアップルカーに盛り込まれるわけではないが、アップルが作り出すクルマは我々が知っている今のクルマとは大きく異なる、ワクワクする経験がもたらされるクルマになりそうなことがわかる。

 アップルは、iPhoneやiPadなど、これまで誰も見たことのなかった革新的なプロダクトを世に送り出してきた。

 それらのプロダクトは「リープフロッグ」、すなわち跳躍するカエル、我々を一足飛びに次の未来へと連れて行ってくれるプロダクトで、洗練されたデザインも兼ね備えていた。そしてそのようなプロダクトをもたらす革新性や創造性に憧れる、熱狂的なアップルファンが世界中にたくさんいる。

 アップルカーは、他のBEVメーカーのクルマと比較して「リープフロッグ」で「クール」でなければならない宿命にある。そして移動体験を感動体験に変えるものでなければならない。そうでなければ、アップルファンの期待を裏切ることになってしまい、むしろアップルのブランド価値を毀損してしまうことになる。

 またお金を払ってクルマを購入し、所有者がクルマのためのスペースも用意するというビジネスモデルから脱却し、移動というサービスをアップルが提供するビジネスモデルも、充電インフラと共に確立しなければならない。

 そのハードルの高さから、アップルカーの開発には時間がかかっているものと思われる。だがアップルは世界一の株式時価総額、およそ300兆円を誇り、圧倒的に潤沢な資金と優秀な人材を抱えている。

 アップルであればその高いハードルを軽々と乗り越え、近いうちに我々に新しいクルマの未来を見せてくれると信じてやまない。

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