■ベンチマークに頼るのは素人の仕事
それなのに、なぜ多くの日本車はベンチマークの依存度をますます上げてしまっているのか?
ハッキリ言いますが、エンジニア自身の技術や思考レベルの低下に加えて、少子化や新技術ジャンルの増加による開発人員の不足、そして何より大きいのはメーカー自身の開発費用の削減のためです。
かつて日本の自動車メーカーは、今のようにベンチマークに頼った商品はあまり作っていませんでした。本田宗一郎時代のホンダなどはその典型で、トヨタ、日産と同じようなものは作るなという哲学でクルマを開発していました。また、日本独自発想のコンパクト化や世界情勢を先読みした燃費の技術開発の結果が、オイルショック時に世界で日本車のシェア拡大を成し遂げました。
ところが1990年代に日本車メーカー全体がアメリカに軸を置き、アメリカのようにベンチマークで開発するようになってしまった。人手が足りないからといって開発の標準化を進め、外部の委託会社に頼む領域も広がるばかり。独自性のあるクルマを作れる力がないからベンチマークで他社と比較して作るしかないのです。残念ながら、今の日本車メーカーはそれが当たり前の仕事だと思い込んでいます。
もし……素人のあなたが「クルマを作れ」と言われたらどうしますか? 何もわからないから競合するクルマを調べてベンチマークにして、それを少し超えるものを作る以外に方法が思い浮かばないはずです。
要するに、エンジニアのレベルが低いほどベンチマークに頼るしかないのです。それで出来上がるクルマは外から見ていたら差がわからないコピー商品。逆に言うと、ベンチマークを使わない仕事は「想像力と技術を熟知したプロの集団」にしかできないということなのです。
先ほども言いましたが、ベンツ、BMW、アウディ、ポルシェなどは独自のものを作れる技術があるからベンチマークなんて使いません。技術が低いからベンチマークのゾーンのなかと部品単位の分業化でしか作れないのです。
そんな工場の流れ作業と同じような開発業務を続けていて、お客さんに欲しいと思わせるクルマができるでしょうか? 残念ながら答えはNO。クルマ作りは「その商品の独自性と存在する意味」を追求する姿勢が何よりも大切なのです。
【番外編コラム】トヨタの強さはベンチマークに頼らない独自性にあり!
水野氏に「ベンチマークに頼っていない最近の日本車は?」と聞いたところC-HR、クラウン、アルファード/ヴェルファイアの名前が挙がった。全部トヨタ車だ。
C-HRは「豊田章男社長の“もっといいクルマを作る”という強い意志を感じる。このクラス、価格帯でわざわざニュルで足回りを鍛えること自体がベンチマークの枠を超えている」。
クラウンは「完璧にクラウンワールドを持っている。他車との比較ではなく、クラウンユーザーとの一対一の真剣勝負で作っていることが伝わる」。また、アル/ヴェルは「トヨタ独自のもので、比較できるクルマが世界中にない」と評価しており「トヨタ車がなぜ売れるのかというひとつの理由がみえてくるね」と言う。他メーカーも頑張ってほしいものです。
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